第66話 一匹目
ベルメールが指を鳴らすとケルベロス達の額に埋め込まれた石が邪悪に光る。そして、ケルベロスはゆらりと立ち上がり彼の傀儡と化した。それを見たムーナは悔しそうに唸り、すぐさま私とフローに告げる。
「二人とも、額の石を狙うのじゃ! あれでケルベロス達を無理矢理制御しておる! 遠慮はいらない! ケル……もう少しの辛抱じゃ!!」
「分かった。本気でやらせてもらうよ!! 光よ射抜け!!」
私の攻撃を皮切りに戦闘が始まった。
聖なる光で出来た魔法の矢を、三匹に向かい大量に放った。ケルベロス達は攻撃を避けて、三方向に飛び退く。
そのうちの一匹に向って、ムーナは駆けだした。
野生動物の様に素早く動き回るムーナは、拳や蹴りに魔力を乗せて打ってゆく。私はムーナとケルベロスが1対1になるように魔法を使い、二体のケルベロスを相手する。一体ずつ倒してゆく作戦だ! 私も隙が有ればケルベロスの額の石を狙って攻撃する。
「さすが元聖女。ここまで戦いますか……しかし、僕の相手もしてもらわないと……困りますねぇ!!」
私に向かい攻撃を仕掛けようとしたベルメールは白い影に妨害され、それをキャンセルせざるを得ない。白い影――フローティアは鋭く彼を睨みながら斬撃を繰り出す。
「貴方の相手は私です」
「――!!」
フローがベルメールを担当だ。彼女は彼に物理攻撃は与えられないものの……
「左手、また貰いましたよ」
彼女の刃が彼の体を薙ぐと、怪我はないものの動かなくなるのだ。
「せっかく直したのに! ちょこまかと! しかし、これは避けられませんよね!?」
ベルメールも至近距離でフローに向かい闇魔法を放ってくる。避けきれなかったフローは翼に直撃を受けて地面に落ちるが……それを視界の端で確認していた私はすぐに動く。
「闇払いの壁!! 」
聖魔法の防壁を展開する。動きを止めた私に二頭のケルベロスも飛び込んでくる。バチンと大きな音が鳴るが……ケルベロス達にとって相性の悪い防壁だ。簡単に破れない。私はケルベロス達を無視して胸の前で手を組み、祈った。
「――フローの翼よ癒えて!!」
祈りと共にフローの翼が再生する。翼が癒えると同時にフローは再びベルメールに仕掛けるのだ。私も至近距離のケルベロス達に、それぞれ掌を向けて攻撃する。
「 星の瞬き!! ――爆ぜろ!!」
二頭はそれぞれふっ飛んでいった。この間わずか20秒も無い。
「くそっ! 小賢しい! しかし、あの魔力量……絶対に手に入れたい!!」
「おしゃべりは舌を噛みますよ??」
聖なる剣と邪悪なる魔法のダンスは続く。フローが抑さえてくれる間に、ケルベロス達を何とかしなければ!
――ピキッ!
ムーナとケルベロスの戦いに動きが有った。
「よし! 砕いたぞ!!」
ムーナがケルベロス石を割ったのだ。ケルベロスはひと啼きすると『ぼふん!』と黒い煙に包まれる。一陣の風に煙は攫われ、そこに残ったのは……ムーナに抱えられた、黒くてモフモフとした魔物・ケルベロスだった!
「クゥーン……」
「よしよし辛かったのう……先に帰って休んでおれ!」
ムーナはケルベロスを抱えたまま魔界の扉の近くに駆け寄ると、扉の奥からにゅっと掌が出てきた! 彼女はその上にケルベロスを置くと、ケルベロスは嬉しそうに「わん!」と鳴く。大きな手に優しく包み込まれたケルベロスは、魔界の闇に飲み込まれていった。
「まずは一匹! この調子いくのじゃ!!」
「うん!」
「わかりました!」
フローの攻撃を避けながらベルメールは悔しそうに舌打ちをした。
私達もこの調子なら上手くいく――そう思っていた。




