第61話 聖女と天使
ベルメールは置き土産に、私達に向けて攻撃魔法を放ってきた。すぐさま防御魔法を展開して攻撃を防壁で受ける。
「――うっっ!!!」
凄まじい光と轟音が彼の攻撃力の高さを物語る。この攻撃による砂煙がおさまった時。再び攻撃魔法の光が見えた。
「二発目!?」
防御魔法は展開しているが、先ほどの攻撃で魔法防壁は薄くなっている。もう一度展開する時間も無い。衝撃を覚悟した時、私達の目の前に大きな影が立ちはだかった。巨大な黒いドラゴン――
「アーリィ! ルイス!!」
アーリィの目の前には、大きな魔法防壁が展開されている。すぐさま攻撃魔法が防壁に当たり砕ける轟音が響いた。
音と光がおさまり、目を開けると……人型に戻り仰向けに倒れるアーリィと、彼に外套をかけるルイスが居た。ルイスは振り返り私達に声を掛ける。
「みんな無事か?」
「二人とも、来てくれたんだね……ありがとう……危なかったぁ……」
「ああ、アーリィの速さは伊達じゃないよ」
苦しそうに呼吸をするアーリィは、仰向けに倒れたままこちらを見て手を挙げた。
安心したムーナもその場にペタンと座り込む。みんな無事だ……安堵の息を吐いた時だった。
「さすが、メルの騎士ですね……それは……認め……ます……」
フローティアがバランスをグラリと崩した。慌てて抱き止めようとするが、彼女は私の腕をすり抜けてそのまま地面に倒れ込む。苦しそうな表情をした彼女は、いつもより透き通って今にも消えそうだった。
「「フロー!!」」
「フロー! しっかりして!!」
◆ ◇ ◆
「ふぅ……お騒がせして、すみませんでした」
傷だらけのみんなを見つめながら、フローがぺこりと頭を下げた。無事で何よりだ。
「メル、大丈夫~?」
心配そうにムーナが私の顔を覗きこむ。今は私がソファーにもたれ、ぐったりしていた。
(つ、疲れた……)
フローが倒れた後、私は必死に彼女の目覚めを祈った。すると、彼女は目を開けたのだ! フローにも聖女の力が効くと感じた私は、必死に彼女の治癒を祈ったら……治った。
ただし、必死に力を使ったため魔力切れとなり、メンバーの中で一番ぐったりしている。
「今のメルから魔力を貰えねーよ……」
あのアーリィが遠慮するほどだ。私は何とか口角をあげて「気遣いありがとね」と、ひらひらと手を振る。ソファーにもたれたまま、みんなの話を聞いた。
「さて、今回の件をまとめると、突然ベルメールが現れて、攻撃された。メルが生きていることもバレて、フローティアも見える。そして、ムーナが魔王だったと」
魔王と聞いて、ムーナはその豊満な胸を張って元気に答えた。
「そうじゃっ! あやつは妾のケルベロスを無理矢理従えておる! それに、フローの事を天使と呼んでおった」
「はぁ……。魔王に天使。一気に情報が押し寄せるな」
(私も同意ですっ!)
情報過多で眉間を押さえ考え込むルイスに対し、ポーカーフェイスのフローは、ムーナの情報に補足した。
「それに、メルの体を未だに狙っています。あっ、屍術師としてですよ? ルイス」
「分かっている。フローが守ったんだ。絶対にメルを渡すものか」
ルイスは答えると奥歯をぐっと噛んだ。彼の言う通りだ。ベルメールの思惑通りになってしまってはフローの死が報われない。私達の空気は必然的に重くなる。しかし当の本人はあっけらかんと情報の整理を続けた。
「あの人。去り際に『また来る』とか『次は汚い手を使う』とか言ってましたね?」
私とムーナは頷いた。そうだ、ベルメールはまたやって来る。ならば対策を練らなくては……。しかし、汚い手とはなんだろう?
「汚い手が分からないよ。真夜中に襲撃するとか?」
「んー……。ずっと緊張状態にさせて、消耗させる作戦かもしれない」
「そですね。奇襲は考えるだけ無駄でしょう。有るとすれば確実にメルとムーナを捕まえる方法でしょう」
「そっか……。ベルメールはムーナとフローが居たことで、予定が狂って退散したと仮定すると……一人ずつ潰しに来るのかな」
「そうだな。王都で目立つ行動をしたのは、僕とアーリィをここから離したかったのかもしれない」
「じゃぁ簡単じゃねーか。メルを一人にさせない」
「そうなのじゃ! 妾がずっとメルと一緒にいるのじゃ!!」
「そうなのですが……。それを崩すのが汚い手なのでしょう。しかし、その心がけは大切です。メル? 単独行動はいけませんよ?」
「うん、わかった……」
私も彼女達の言い分は頭では分かっている。だけと嫌な胸騒ぎがした。




