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死んだ聖女は天使と遊ぶ ~犯人を捜したいのに、スローライフを強いられます!~  作者: 雪村灯里
最終章 死んだ聖女は天使と共に戦う

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第60話 魔王の魂の欠片はやっぱり可愛い

 この屋敷の癒し系であるムーナ。


 ミルクティー色のサラサラロングに白い肌、黒い角とふわりとした尻尾がチャームポイント。柔らかな色彩と空気を纏う、きゅるるんとしたゆるふわお姉さんだ。素直で人間にも優しく、お昼寝が大好きな彼女が……魔王だった。


 過去の魔王との戦いを描いたタペストリーを思い出す。彼女と描かれた魔王とでは、かなりのギャップがある。


「お前が魔王な訳無いだろうぅ!? 伝え聞いた姿と違い過ぎるっ!」


 あっ……ベルメールが私達も疑問に思った事をムーナに聞いた。その問を聞いたムーナはワナワナと怒り、叫んだ。


「全部お主の所為せいじゃっ! お主がっ! 無理矢理扉から引き出したからっ!!  わらわだって、本当は大きくてかっこいいんじゃぞ!!」


 本当は大きいの!? ……あの扉に見合うサイズのムーナを想像しても、彼女はやはり可愛かった。


「メル、集中」

「ハイ」


 情報が錯綜さくそうする中、ベルメールはズレた眼鏡を直し、答えを導き出す。


「つ、つまり……貴女は魔王の一部であると……扉の向こうには魔王本体が居るという訳ですね?」

「そうじゃ、それがどうした」


 少し嫌な予感がしたので、私達は身を寄せて彼に向かい身構えた。


「なぁーんだ! それは好都合!! 魔王の欠片かけらとお喋り侍女を捕まえれば、更にこちらの野望にも近づくというモノです!! さぁ! 今の主人は僕ですよ!! 行きなさい、ケルベロス!!」


 ベルメールが指を鳴らし、言葉を放つ。ケルベロス達の額に埋まる石がパチリと光った。先ほどまで動けなかったケルベロス達が、苦しそうに咆哮を上げて私達に襲い掛かる。一頭は近くに居たムーナを振り飛ばした。残り二頭は私めがけて飛びかかってくる。


「な……に……! おまえたち……妾が分からぬか!?」


 悲しそうにうめくムーナには悪いけど、ケルベロスに攻撃を当てなくてはならない。


「左は私が、フローは右を!」

「ええ」


 手短にフローと話し、私達は攻撃する。


「炎陽の槍!!」

「はぁぁぁっ!!!」


 出来るだけ急所を外し動きを止める攻撃に努めた。一頭は降り注ぐ炎の槍を受けると、慌てて後退。しかし、再び向かってきたのでもう一撃お見舞いした。すると、ケルベロスは地面に吸い込まれる様に退散した。

 フローも舞う様に美しい身のこなしで、ケルベロスの攻撃を躱す。彼女の眼光が鋭くなると同時に放たれた斬撃は前足にヒットした。傷を受け驚いたケルベロス足を引きずりながら後退し、うずくまった。


「フロー! ナイス! さすが元騎士志望!!」

「意外と体には染みついているものですね。ああ。体、無いんでした」



「なんだこの違和感は……何か居ますね」


 鋭くこちらを観察していたベルメールが、ぼそりと呟いた。


 しかし今はムーナを助けるのが先決だ。前足で押さえつけられた彼女は自身の飼い犬からの猛攻に遭っている。両手で抵抗するがそれも時間の問題だろう。踵を返し私達は彼女の元へ向かう。だが、私達よりも早く彼女を助ける影が有った。


 力強く地面を蹴った、立派な角を持った黒い影……コクヨウが、ケルベロスの前足に突進する。


「メ゛ッ゛!!」


 彼の突進が効いた! 驚いたケルベロスはムーナを逃がしてしまう。ケルベロスから解放された彼女は大きく息を吸い……


ハウスゥーー(戻れーー)!!」


 彼女の余りにも大きな声に、私は耳を塞いだ。こんな大声出せるのね……

 お腹の底から叫んだ彼女の声をケルベロスが聞くと、耳をと尻尾を伏せて小さく鳴き、地面に吸い込まれていった。

 ムーナ達と合流し、私達はベルメールに向き直るが……彼の姿を見て私達は驚いて動きを止めた。

 

 ベルメールの目の下と耳に、禍々しく赤い紋様が浮かび上がり、光っていた。


「なるほど、違和感の正体に気付きました。……『解除レリーズ』」


 その言葉と共に強風が私を襲う。頭を庇っていたが結っていた髪が解け、視界にピンク色の髪が映る。


「ははっ! これはこれは。見たことある顔だと思ったら聖女様でしたか。そして隣にも何か居ますね? 」


 ベルメールがノーモーションでフローに向けて攻撃を放った。無数の黒い刃がフローを襲う。彼女は剣を使い、幾つかの攻撃を防いだが……


「――!」

「フロー!!」


 フローは翼や脚、頬に傷を受けた。血の代わりに白い光が弾け、空にへと消えて行く。顔を歪め自身の傷を冷静に把握した彼女は、再びベルメールを睨んだ。


「はははっ! 女神を否定する古の闇の魔法は効くようですね? なるほど、天使ですか。 天使と魔王を味方につけるなど、面白い!」


 ベルメールは自身の右手で動かなかった左腕に触れた。すると左手が動いた。

 彼のあの紋様の所為せいで、フローが視えるようになったらしい。フローが剣を構えベルメールに言い放つ。


「まぁ。私が視えますか。三対一であなたが劣勢です。大人しく負けなさい」

「ははは! 確かに、聖女と魔王と天使のトリオではさすがの僕も厳しいでしょう。なので僕は汚い手を使います!! ……ですから今日は撤退です。多勢に無勢が過ぎますので。ではまた後日!!」


 ベルメールはうずくまっていたケルベロスを蹴とばす。ケルベロスの背中から黒い翼がにゅるりと生え、それに乗って飛び立った。

 二のてつは踏みたくない……逃がしたくない。だが、今は仲間の無事を確保することが最優先だ。最後まで気は抜けない。杖を構え、空に消えて行くベルメールを睨む。


「メル、それでいいです……」

「……うん」


 星が瞬いたかのように、小さくなったベルメールの影がチカチカと光る。――置き土産だ。


「――!! 二人とも私の後ろに!! 攻撃が来る!!」

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