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死んだ聖女は天使と遊ぶ ~犯人を捜したいのに、スローライフを強いられます!~  作者: 雪村灯里
第二章 魔界de強制スローライフ

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第57話 冬に感じる春の訪れ

 勇者一行が旅立ってから数日が過ぎた。この屋敷には様子がおかしい人物が二人。


 ムーナは窓から青い空をぼんやりと眺め、アーリィはコクヨウの小屋の上に座り込んだまま動かない。


「「はぁ~~~~」」


 二人から大きなため息がきこえた。ず~っとこんな感じで、食事の時ですら元気がない。

  時々開催されていた二人の運動会もさっぱり無くなり、屋敷は静かになってしまった。


「完全に、恋煩こいわずらいですね」


 フローティアが無表情で二人の診断を下す。ムーナは勇者に、アーリィはテイマーに恋をした。そんな二人を見つめながら私とフローはお茶を楽しんでいた。


「くっくっくっ~~。二人とも恋かぁ~~。人の恋は見守ってると楽しいよね♪」


 恋愛模様が目の前で二件も発生しているのだ。楽しまずにはいられない! 余裕綽々(しゃくしゃく)の私は紅茶を飲んだ。二人の恋の甘さで、この紅茶も甘く感じる。紅茶を楽しむ私に、ジトッとした目でフローがぼそりと呟く。


「他人ごとですね?……メルも恋をしていいのですよ? 聖女時代忙しかったですし。ルイスの事、どうなんです?」


 その言葉を聞いて、飲んでいたお茶が気管に入り咽る。


「な……恋? ルイス!?」

「そうです。一つ屋根の下一緒に過ごしてどうです? 私が知る中ではおススメですが……嫌いですか?」


 この屋敷に住んで約二か月。この奇妙な共同生活は、とても充実して楽しかった。城では騎士として厳しかった彼も、普段の姿はとても優しく気さくだ。


「き、嫌いじゃないよ? ……ルイスは優しくて頼り甲斐があるいい人だけど、なんで急にそんなことを!?」


 オロオロする私とは逆に、フローは目を伏せて静かに語る。


「最初はメルを独り占め出来て楽しいと思ったのですが……私はいつ消えるか分らない身です。私が消えた後のメルの幸せが気になって」

「なんでそんな寂しい事言うの? そんなの嫌だよ……。それに消えるって……何か予兆でもあるの?」


 彼女は静かに笑い、首を横に振った。


「いえ、ただ『幸せすぎて怖い』って感覚かもしれません」


 フローが今の生活に幸せを感じてくれるのは嬉しい。私も彼女と同じく幸せで『彼女がいつ消えるか分らない』という事実から目を背けたかった。二人して悲しい顔をしていると、二階の自室にいたはずのルイスがリビングにやって来た。


「なんだい? 呼んだか?? 二人してそんな悲しい顔をして……何か壊れたか?」

「……いえ、なんでもありません。そうでした。ルイス、例の件は頼みましたよ?」


 例の件? 二人は真剣な眼差しで見つめ合っていた。二人の間の空気は緊張感を孕んでおり、私も思わず固唾を飲んだ。しかし、そんな緊張もルイスの不敵な笑みで終わりを告げる。


「その時がきたらな。……しかし、そんな気弱なフローを見るのは久々だな? あの『凍れる花』も解けてしおれてしまったか? フロー、負けを認めてもいいんだぞ? そうすれば楽になれる。なぁ、メル?」


「な、何の事?」


 何の話をしているのだろう? 私にはさっぱりわからない。ただ一つ分かったのは、フローの眉がピクリと動いたことだ。だけどすぐいつもの表情に戻り、彼女はルイスに言い放つ。


「約束を覚えていて結構。しかし、勝ち負けなど……その約束は競うものでは有りません」

「そうか、ならば文句は無いな?」


 そう言って、ルイスは私の後ろに立つと肩に手を置き、私の髪をひと房手に取る。そして髪にキスをした。


「「!!!」」


 彼の目はいつもと違かった。真剣な目で私を見つめている。心なしかいつもより色気が有るというか……切ない目をしている。そんな彼と先ほどの行動で、顔が熱くなるのを感じた。混乱する頭で言葉を絞り出した。


「ル、ルイス? 何をやって……」

「驚かせてすまない。フローが独り占めしたと聞いてつい。それに、いい香りがしたからな」


 悪戯っぽく笑い、耳元で謝罪する。驚いたフローが立ち上がり、素っ頓狂な声を出した。


「つい!? しかも立ち聞きしてたんですか? きもっ!!」

「失礼な。偶然聞こえただけだよ。おっと、ダメだったかい?」


 フローの態度が確実に変わった。わなわなと怒りがあふれ出ている。彼女は目を細めながら、ルイスに宣言する。


「私、自覚しました。今もこれからも負けるつもりは有りません! メル、前言撤回です!! ルイスはダメです!! ムカつきます!!」


 フローはポカポカとルイスを一生懸命に叩くが、物体に触れない。


 元気が戻ったフローを見るルイスもいつものルイスに戻っていた。私の視線に気が付くと、声に出さず「すまなかった」とウインクをして見せた。

 彼女の元気を取り戻してくれたのはありがたいけど……あれは私がドキドキしてしまうので控えて欲しい。落ち着こうとお茶を飲んだその時だった。


「――――! ケルベロス!!」


 ムーナの悲痛な声が響いた。全員の視線が彼女に集まる。


「ムゥ、どうしたの?」

「今、遠くでケルベロス達の声が聞こえたのじゃ……苦しくて藻掻いておる……」


 ムーナは王都の方角を見つめ呟いた。ケルベロスはムーナと一緒に魔界から引きずり出された魔物だ。ケルベロスはベルメールに捕まっている。つまり、それは……その後のルイスの行動は早かった。


「アーリィ、王都へ行くぞ。準備しろ」

「あ、ああ!」

「すまん、王都に行く。三人とも、留守を頼んだ!!」


 そう、春が来る前に私達は因縁と対峙することになる。その足音はすぐ近くに迫っていた。

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