第5話 Ghost or Angel?
短剣で胸を貫かれて死んだはずのフローティアが、ムスッとした顔でベッドの傍に佇んでいた。
「……ふえっ!?……ふぁっ!?」
その姿を見て、私は言葉にならない声で驚く。ついでに自分の頬も叩いた。……い、痛い。
フローは水色のロングヘアーを、両サイドでハーフアップに結っていた。白を基調としたブラウスとスカートを纏って、頭の上に小さく光る輪が浮かんでいる。それに背中には小さな翼が見えた。
(い、生きてる……の?? ああっ! なるほどねっ!!)
「 あれは誰かを驚かすための悪戯だよね!? まさかフローが死ぬ訳無いもんね!! もう、すっかり騙されちゃっ……」
彼女は真っ直ぐに私の目を見て、言葉を遮った。
「いいえ、死にましたよ。しっかり」
しっかり? ぴしゃりと、はっきり、いつもの口調で……物騒な事を言ったよ? この子。
「本当に死んじゃったの? しっかり」
「ええ “心臓を一突き” だそうです」
それを聞いて、私は再びベッドの中に潜った。
(わぁ……死んじゃったのか……。ですよね? あんなに騒ぎになる位だし……あの短剣も儀式で使う予定の真剣だし……)
彼女の最期の姿を思い出し、感情が一気に込み上げてきた。
「ああああああっ! 死んじゃった!! 私の所為で、ごめんなさい!! 嫌だよー!! 何で死んじゃったの!! 誰に殺されたの!?」
「あまり大きな声を出さないでください。私が築き上げたイメージが崩れます」
(自分が死んでしまっているのに、そんな冷静に言わないでよ!! 待って? 私が見ている、このフローティアは何? どんな状況!?)
私はブランケットから顔を出して彼女を見つめる。彼女は五月蝿いと言わんばかりに耳を塞いでいた。
頭の中の知識を総動員して、この状況について考えるが……答えが出ない。直接本人に尋ねてみた。
「ねぇ、今見えてるフローは何なの? 幽霊??」
彼女は私の質問に、首を傾げて考え込む。
私も死者の魂を見たことはあるけど……光の球のような見た目で、彼女のようにハッキリとした人の姿では見たことが無い。
フローのシンキングタイムが終り、弾き出された答えは……
「何でしょうね? 私も天に召されたと思ったら、戻って来ていました」
「やっぱり、召されちゃったんだぁ……」
再び、彼女の死を意識すると、涙があふれてきた。
それを見てフローは呆れ顔でため息を吐く。
「いつまでも泣かないでください。もぅ! ベッドの中に居ないで、さっさと起きてください! 今、城は大パニックなんですから!!」
はっ!! そうだ! 今この城では殺人事件が起こって、尚且つ聖女が死んだことになっている。
それはそれは大パニックだ。聖女の代わりに犠牲になった影武者の正体を明かして、聖女として任務を遂行しなくちゃ!!
私は慌てて飛び起きた。




