第56話 勇者様のお遣い
目覚めた勇者にムーナを賭けた決闘を挑まれ、危うく一色触発だったが……
「えーっと……落ち着いた?」
私達はリビングでお茶を飲んでいた。ただ、アーリィと彼らが連れていたドラゴンは庭で戯れていた。
姿勢よくお茶を飲んだ勇者はカップを置き、ハキハキと答える。
「はい! 先程はとんだ失礼を!!」
額に出来た新しい擦り傷が痛々しい勇者君。あの後、彼はルイスの顔を見て我に返り、事情を聴くと床に手をつき詫びたのだ。床に額を打ち付けんばかりの激しい謝罪。勿論、みんなで止めた。副団長の顔をしたルイスが勇者に尋ねる。
「ごほん。なぜこんな所に? 君たち一行は北西の森に討伐依頼が出ていたと思うのだが」
「はい! 実は極秘行動を命じられておりまして!」
「おい……」
「ちょっと……」
「助けて頂いたんだ! それにルイス様だ。信頼に足るお方だぞ!! それに……」
そう言って彼は、離れた所に座っていたムーナに熱視線を送っていた。ムーナは彼とバチンと視線があうと一瞬肩がビクリと跳ねさせて、頬を染めて顔を逸らした。
「それで、極秘行動とは?」
ルイスが話を続ける。
「はい! 先日、聖女様が結界を張った魔界の扉の前に『不要な杭が有るから回収してこい』と。しかし、扉に近づく事も出来ず、あんな状態に……」
「「「え?」」」
私達三人は思わず声が漏れてしまった。正確にはフローの姿は彼らに見えていないので、私とルイスの声しか聞こえないのだケド……
私達は目線を合わせて確認する。
「それを依頼した人物は誰だ?」
「すみません、俺達も名前は分からないんです。とある大臣の使いとされる……眼鏡を掛けた金髪のへらへらした若い男から命令されました」
大臣の使い……眼鏡を掛けた金髪のへらへらした若い男。心当たりしかなかった。フローを殺したベルメールだ。しかもその杭、うちに有る。
「せっかく聖女様の加護を頂いたのに……! 俺達が未熟なばかりに!!」
「それだけではありません。この森の魔物、他の土地の魔物と違うんです。なんというか、狡猾で……」
「それに強いんです。他の土地より圧倒的に……」
(あー……予想はついていたけど、聖女様に聖女の力が無い事は王宮の外では伏せられてるのかな?)
そんな疑問が顔に出てしまったようだ。私を見てルイスが静かに頷く。
(ですよね?)
それに、この森に関しては私の所為だ。勇者ご一行は悪くない。私は顔を引きつらせながらルイスに話しかけた。
「杭って、あれの事ですかねー。ルイス様」
「……ああ、そうだな。昨日、魔物が加えてたやつかもしれないな」
席を立ち、自室から結界杭を持って来て勇者達に見せた。杭を見せると彼等の表情は明るくなった。
今の杭は魔法石が無ければ、ただの杭だ。たとえ渡しても聖女の力を持つ者しか制御できないし、使えても結界を張る事しかできない。勇者と魔術師が嬉々として反応する。
「これ! これです!!」
「ああ、でも……魔法石がない」
ぎくぅ!!
『魔法石は先日、砕いてアクセサリーに仕立てました!』 なんて言えない。私は慌てて嘘を並べる。
「魔法石は取れてしまったようで……私達の手元に来たときにはもうありませんでした。しかし、この杭を何に使うんでしょうか? 壊れているのに」
「前聖女様の残した魔力を集めているらしいです。それを使って魔界の扉を壊すと」
「「「壊す!?」」」
あの扉、壊せるの? 壊したらどうなるのだろう……魔物が来ない世界が到来するのか、逆に魔物達がこの世界に押し寄せるのか……どちらかと言えば壊すというより開けようとしているのでは……?
私達が唖然としていると、勇者はしみじみ語る。
「なので俺達も彼に協力しようと。しかし魔法石が無いか……探すか……」
「や、やめた方がいいのでは!? 魔物だらけです! それにこの森から魔法石を探すなんて、砂漠で砂金を探すのと同じくらい困難ですよ!!」
探されては困る。だって、無いんだもの!!
ルイスも冷静に助け舟を出す。
「ああ、今回は偶然君たちを助けられたが、今後も出来るとは限らない。装備と人員をそろえてから臨んだ方がいいだろう」
「ルイス殿がそこまで言うのなら……」
勇者達は納得してくれた。翌朝彼らは、壊れた杭を持ち再び冒険の旅に出発する。
「ムーナ殿、この旅が終ったら迎えに来ます」
そう言って勇者は、ムーナに向かいウィンクをする。彼女は恥ずかしそうに私の後ろに隠れて、彼に向かいもごもごと伝える。
「う、うむ……遊んでやってもいいのじゃ……」
両思いなのかな? でも勇者の言葉がフラグっぽいので、本当に気を付けて旅をしてほしい。
ちなみに、私は真夜中に彼らの装備品と武器に聖女の加護を付与したので、往路よりは楽な旅路になるだろう。私達は三人と1匹の背中を見送る。彼らが見えなくなった頃、いつもと様子が違う人物がもう一人居た。
「アーリィ、どうしたの? ぽーっとして? 風邪? 熱でもある??」
「え? いや、俺にはメルがいるから……そんなんじゃない……」
え? アーリィも恋の病?? 思わず聞いてしまった。
「あのテイマーさんが気になるの?」
「ちがっ……でも、小さくて可愛い……」
ほほう。これは春の予感がする。まだまだ寒い日が続いているけど、いいものを見れた気がした。
みんなで春を迎える事が出来ればいいのだが……




