第55話 勇者様ご一行!
キッチンに薬草の香りがふわりと香る。
火から降ろした鉄鍋の中には、薄緑色の液体がとろりと揺れる。……危うく失敗しかけたが、特性ポーションが完成した! これもまた、聖女の祈りで効果を底上げする。これを飲めば勇者も元気になるだろう。
満足げにポーションを消毒した小瓶に移していると、腕を組み顎に手を添えてフローティアが考え事をしていた。
「勇者の事を考えてるの? 彼等の目的は本人達に聞かないと分からないよ」
「ええ。それはそうなのですが……まず前提として、勇者なのにこの森の魔物に負けているのは、問題じゃありません??」
おっしゃる通りだ。
「確かに……ほら!……一応ここは魔境だからね。それに魔物に囲まれて魔物に剣を取られたら戦えないよ」
「それにしても油断が過ぎますね……」
確かに。二人で首を捻っていると、玄関からルイスの声が聞こえた。
「フロー! 怪我人だ! 手伝ってくれ!!」
勇者の連れも一緒なのだろう。急いで髪色を変えてフローと共に玄関に向かう。
「お帰りなさい、客間のベッドは準備してあるからそこに寝かせて……えっと……」
彼らの姿を見て困惑してしまった。
そこには魔術師らしい女性を抱えたルイスと、気を失った小型……とは言ってもそこそこ大きいドラゴンを抱えたアーリィがいた。その後ろに、テイマーっぽい装備の女性が申し訳なさそうに立っている。
ど、ドラゴンかぁ~。
◆
取りあえず、勇者ご一行のメンバーで気を失っている二人と一匹は客間で休んでもらっている。テイマーのお姉さんだけ居間に通し、皆でお茶を飲んで一息ついている所だった。
「ひゃぁぁぁぁぁ~~~~~」
客間からムーナの声が聞こえてきた。彼女の悲鳴など初めて聞いた。
4人で悲鳴の元となった部屋へ向い勢いよく扉を開けると……頬を染めたムーナと、彼女の両手を包む様に握り、真剣な眼差しを彼女に向ける勇者がいた。
この騒ぎで眠っていた1人と一匹ももぞもぞと目を覚まし、辺りをきょろきょろと見渡しながら状況確認にいそしんでいる。
そして勇者の口から紡がれた言葉に一同は耳を疑う。
「御嬢さん……貴女は命の恩人だ。俺と結婚してくれませんか?」
「「「「「はぁ?」」」」」
当人以外はこの急な求婚に困惑を隠せない。もちろんムーナ自身もだが……
「うっ……ううううううう!」
ムーナは私達を見つけると、勇者の手を振り払う。脱兎のごとく私の背後に隠れた。
そして、私の肩越しに上目づかいで勇者を見ながらか細い声で返事をした。
「わ、妾は……メルのものなのじゃ……」
でもその顔は恋する乙女そのものだ。かわいいなぁ、ムーナ。
私はほんわかとした気持ちで彼女を見た後、勇者君を見ると……思いっきり睨まれた。やな予感がする。そして……
「おまえは! 誰だぁーーーー!!! 決闘だ!! 表へ出ろーーーー!!!」
ひどい。命の恩人なのに。




