第54話 元聖女は森で〇〇を拾いました!
魔界の扉の結界を張ってから2週間。すっかりスローライフを満喫している。
魔法もかなり使えるようになってきたので、重い物も魔法で浮かせて運べる! その恩恵として、森で面白い物を拾って来ては屋敷に持って帰れるようになった。先日は面白い形の岩が有ったのでフローティアに見せようと持って帰ったら『元の場所に戻してきてください』と冷静にあしらわれてしまう。かなしい。
「えっ! これって……!!」
今日も今日とて、森でとんでもない者を見つけたので、慌てて持って帰った。
息を切らし玄関の扉を開けて叫ぶ。
「ただいま! ねぇ! フロー! ムーナ! ちょっと来て!!」
「な~んですか?? まぁ~た変なモノでも拾いまし……」
「わぁ~♪ メル! お土産か??……わぁ! こやつ、可愛い顔をしているな!」
フローが言葉を詰まらせるのも仕方がない。私の背後に浮かんでいるのは、気を失っている若い男だ。旅人にしては上等過ぎるの防具や剣を装備している。というかこの人……きっと、勇者だ。
◆ ◇ ◆
――遡る事、数十分前。
泉に祈りを捧げに向かったら、絶賛魔物に襲われ中の勇者を見つけた。あちゃ~、魔物に剣を奪われてる。彼は別の魔物から体当たりを受け、跳ね飛ばされて地面に倒れた。大怪我していないけど……魔物達から散々当たり散らかされたようだ。ヘロヘロの彼から魔力を吸おうと、魔物達が集まってくる。
「こらこら! 彼は弱ってるからダメだよ!? 泉の水で我慢して! 剣も返して」
『『『きゅるるるる~』』』
魔物は私の声を聞くと、素直に剣を返して森の中に去って行った。私、今なら魔物使いになれそうな気がした。
(魔物専門のテイマーになろうかな? あれ? この剣……)
「た……助けてくれ……」
倒れた勇者からか細い声が聞こえた。魔物専門テイマーや剣どころではない! 私は慌てて彼の元に駆け寄った。
「大丈夫。魔物は逃げたよ?」
彼は虚ろな目で私を見るが、焦点があってない。
「仲間が……はぐれた……あいつらを……」
彼はそう言い残して気を失った。
◆
「――と、言う事が有りましてね? フロー」
勇者を客間のベッドに寝かせた後、私はキッチンでポーションを作りながら話した。ちなみにポーション作りは料理より得意です。
さすがのフローティアも、元の場所に置いてこいとは言わず、彼の介抱に助言をくれたが……不安げな顔をしている。
「……はぁ。それは仕方ないですが……もっと警戒心を持ってください。前聖女が生きてたと知れたら、国はひっくり返したような騒ぎに成りますよ?」
それを言われてハッとして頭を抱えた。そうだ!今の私はまごうこと無き前聖女の姿だ。勇者なら前聖女を知っていても、おかしくない!!
「それに仲間もいるんですか……厄介ですね。彼らをこの領地から早く追い出したいのですが……こんな所に何しに来たのでしょう」
「確かに、何しに来たんだろうね?」
勇者が来る理由が分からない。むしろ、先日の結界の一件で王宮から来た人々は『魔物の少なかった』と認知しているはずだ。何か問題となる魔物が現れたのだろうか? それとも、通りがかっただけかな? 謎が深まる。
「 一応、魔物たちに『冒険者らしき人物を見つけたら教えて欲しい』って伝えてあるから……って、もう報告が来た!」
窓の外を見ると、木の枝の上に黒くフワフワとした小さな魔物が二匹。何か言いたげな表情で、こちらを見ている。
ムーナが、窓を開け頷く様に彼らの話を聞くと、小さな魔物たちは嬉しそうに去って行った。
「二人居る~。アーリィが運んでくるらしいぞ?」
「うん分かった! 通訳ありがとう」
「どういたしまして! 妾はあの坊主の様子を見て来る~!!」
「うん、起こさないようにね?」
彼女は尻尾を振って楽しそうに勇者が眠る部屋へと行ってしまった。どうやら彼女は、私達以外の人間が珍しくて気になるようだ。彼を介抱している時も、ムーナは興味深々に彼を見ていた。
ま、まさか。大丈夫だよね? ムーナは人に危害を加えないとは思うけど……
「メル? 集中してください。ポーション煮詰め過ぎて、大変なことになりますよ?」
(あわわわ! 彼とその仲間に振る舞うポーションを作る事に専念しよう)
私は慌てて鍋を火から降ろすのであった。




