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死んだ聖女は天使と遊ぶ ~犯人を捜したいのに、スローライフを強いられます!~  作者: 雪村灯里
第二章 魔界de強制スローライフ

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第53話 暇な聖女は新たな趣味を始める

 私はゆったりとした休日を過ごすべく――魔法石の塊を砕き、工作を始めた。


 途中、砕いた石が壁にめり込み、明日の仕事を増やすというトラブルが有ったものの……


あれ()は明日直そう。とりあえず目の前の事を楽しもう)


 穏やかな心で現実逃避した。


 私は新たな作業を始める。細い麻紐を取り出し魔法石を包み込むように編み込んだ。

 砕いた魔法石には、まだ魔力が込められている。これを用いてアクセサリーを作ろうと画策したのだ!


 隣で作業を見ているムーナが、物欲しそうな顔で尋ねてきた。


「メル~!これ、食べてい~い?」


「これも食べられるの? 一つだけならいいよ」

「ありがとう~……堅いぃ……」


 切なそうな顔をしてムーナは口から魔石を取り出した。私の体から生えた魔晶石は食べられて、鉱物に魔力を込めた魔法石は食べられないのか……不思議だ。


「しかし、メルにもそんな繊細な事が出来たのですね?」

「小さい時におばあちゃんに教わったの。後はいろんな人から教わった事を応用してね」


 麻紐を編みペンダントトップが完成した! それに細い革紐を通せば、素朴なペンダントが完成する。そしてそれを掌に包み込み、私の十八番である聖女の祈りを込めた。


「これはムーナにあげる! ムーナが健やかに過ごせるように祈りを込めたよ」


 ムーナにネックレスを付けてあげた。彼女の胸元で赤い石が煌めく。


「わぁ、ありがとうなの~! ぽかぽかして気持ちいいのじゃ」

「えへへ。喜んで貰えてうれしいよ」


 フローはそんな光景を、何か企む様に見ていた。


「アクセサリーを作って近くの町に卸せば稼げますかね……いや、急に現れた腕のいい術師として警戒されるか、効果が強すぎて市場が混乱します。今はやめてください」


「そもそも材料が少ないから、売れるほど作れないよ。それに、今回は渡したい人がいるんだ」


 フローの眉がピクリと動き、ずいっと顔を近づけてきた! 頬を膨らまし私に詰問する。


「誰に渡すんです?」

「そ、そんな怖い顔しないでよ。その……新しい聖女様に」

「ああ、あの杭を振り回しぐふぅ……」


 通りかかったアーリィが何か言いかけた。しかし、喜びはしゃぐムーナの腕が彼の首元に勢いよくぶつかり、うめき声と共に床に沈む。今の痛そうだなぁ……


 しかし、彼の言う通りだ。新しい聖女様が心配なので……む? 何でアーリィは聖女様が杭を振り回した事知ってるの?? 疑いの眼差しでフローを見ると、彼女は真っ直ぐに私を見て静かに答えた。


「私は“二人の面倒を見る”としか言ってないですよ? 二人とも儀式の邪魔もせず大人しくしていたでしょ? それに二人が帰ってくる前に、私達は屋敷に戻りましたし」


 そ、それは屁理屈だよ、フロー。でも、何も起きなかったから良しとしよう。


 その後、私は魔法石の欠片を使ったハンドメイド作品を、次々と完成させてゆく。最後にアンクレットを作り上げて魔法石は使い切った。


 隣で興味深そうに見ていたフローが尋ねた。


「聖女様身に付けてくれるでしょうか?」

「ネックレスは無理かもしれないけど、アンクレットならチャンスあるかな?」


 聖女は意外と身に付けるものが多い。特に前任があんな去り方をしたら、後任の聖女はアミュレット(護符)を沢山身に着けさせられるだろう。当時の私も身に付けてたけど、アンクレットは無かったので可能性はある。たとえアンクレットとして身に付けなくても、持っていてもらえるだけで嬉しい。


 ――新しき聖女様が、心穏やかに過ごせますように。


 後任の聖女を想い祈りを込めた。

 これも気休めに過ぎない。でも、今の私にできるのは悲しいけどこれだけだ。


「メル、どうやってこれを届けるのですか?」


 届けてもらう人物は決めていた。


「聖女様に近い人物が居るじゃない?」


「メル、ちょっといいか?」

「ほら来た!」


 聖女を守る第3騎士団・副団長でもあるルイスが話しかけて来た。彼ならマジェンダ大臣を通してこれを届けてくれるはずだ!


 お願いしようと振り向くと、彼は作業用の服を着込んでいた。まさか、この流れは……


「作り終えたか? ならば、壁の穴直すぞ。仕事は早く片づけるに限るからな」


 やはり、面倒事はいずれ片付けなければならない。早いか遅いか。

 流石さすが副団長、仕事がお早い。どうやら壁を直すまでは、頼めそうになさそうだ。


 ちなみに、このアンクレットは後日無事に聖女の手元に届いた。めでたしめでたし……と言いたい所だが、私達の周りで事件は再び起きるのであった。

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