第48話 魔術師団は忙しい
「マジェンダ様、お初にお目にかかります。ティアと申します。微力ながら頑張りますのでよろしくお願いいたします」
王宮魔術師団を統括する女傑・マジェンダ大臣の執務室で挨拶した。久々に会う彼女の顔色は良くは無い。しかし、内に宿る強さと厳しさは健在だ。
執務室は人払いされ、私達三人だけ。ルイスも顔には出さないが、纏う空気に緊張が孕んでいる。マジェンダ大臣は目に、薄らと笑いと好奇心を宿して答える。
「ほう、ティアというのね。流石クロフォード君。この依頼、断られると思っていたが連れて来るとは」
断ろうにも、王宮魔術師団には結界杭を、超特急で作ってもらった借りがあるので断れない。それに手紙からの、溢れんばかりの圧からは逃げられないだろう。
苦笑いした私とルイスは目が合った。ルイスも同じことを考えている。
「ならば、例のモノも準備はできているか?」
彼女に問われ、私は懐から布袋を取り出し渡した。
「病魔除けの護符に祈……力を込めました。ご確認ください」
マジェンダ大臣は袋から護符を取り出すと、左目にルーペを嵌めて確認する。
護符に埋めこまれた魔石からはキラキラと光りが零れていた。
「ほう、いい腕前だ。これほどの護符を作れる者は、国中に数えるほどしかいないだろう。君の足元にクラウスが来るかな……しかし、これが有れば尻尾を掴むまでの間対抗できる。ありがとう、恩に着る」
彼女は護符を袋に戻すと懐に仕舞った。この護符は国王陛下とイェロー大臣の手に渡るの。二人が呪いで体調を崩しているなら、護符の効果はてきめんの筈だ!
しかし、呪いまで城内を飛び交うとは……城を守っている結界の力を越える悪意が渦巻いていることになる。
結界が私とリンクしていれば、この呪いに気付けただろう。けど、私と結界はあの日から切り離されているので、それも出来ない。だが肩を落している暇は無かった。
「それではクロフォード君、儀式が終るまでティアは私が預かろう。君は第三騎士団副団長として、本日の責務を果たしなさい」
ルイスは一礼すると退室した。アイコンタクトで『頑張れ』とだけ残して。入れ替わりに王宮魔術師の式典装束を纏った、銀髪の中年女性がやって来る。衣装の装飾が私が着ている物より細かく豪華だ! つまり、偉い人。
「彼女は魔術師団長のココだ」
ココ団長はマジェンダ大臣からの紹介で一礼する。落ち着いた雰囲気の淑女だ。
「ココ、彼女はティア。クロフォードの知り合いの魔術師だ。あの魔境の屋敷で修業をしている。儀式終了までの手伝いだ。その後は直帰、クロフォードが引き取りにくる」
「まぁ、あんな所で修業を……よく無事で」
「ああ、だからこの子は喉を傷めて大きな声が出せない。なので、儀式では杭を持つ役目を。儀式の流れは彼女も知っているが、ココからも説明してほしい。あと例のモノも。それじゃ頼んだよ」
マジェンダ大臣は一方的に説明すると去って行った。ココと呼ばれた魔術師優しく微笑み、私を見る。三十代半ばなのだろうが疲れの所為でもっと年を重ねて見える。あれ? この方、以前見かけた時はもっとキラキラしていたのに……
「ティア、今日は来てくれてありがとう。人手が足りないから助かったわ。歩きながら説明するからついて来て頂戴」
私はココ団長に従い、廊下を歩きながら説明を受けた。
「今日はこの後、馬車に乗って現地に向かうわ。現地で魔術師団は、護衛班と式典班に分かれる。あなたは式典班で結界杭を持って、聖女様に従い歩く役目をお願いするわ」
私は喉を壊している設定らしいので、小さめに「わかりました」と答えた。
廊下を歩き出入り口に出た。出入り口には大きな馬車が2台待機している。
「ティアは魔法を使えるのよね? 魔道具を作った事はある?」
いきなりの質問に困惑しながら答えた。ドロシーに教わって造ったことがある。魔道具に魔力で術式を書き込むのだ。
「中級魔法なら……師匠に習って造った事はあります」
その答えを聞いて、ココ団長は目を輝かせて喜んだ。何? 式典と全然関係ないんじゃ……
「良かった! 移動中、魔道具を作って欲しいの!! さあ、ティアはこの馬車に乗って頂戴! みんな! 助っ人よ!! ティアって言うの!! 式典終了までの手伝いで、彼女大きな声は出せないからよろしく。作業内容を教えてあげて頂戴」
ココ団長はそう叫びながら馬車の幌をめくった、荷台には四人の魔術師団員と……ちいさな結界杭のパーツが数箱乗っていた。魔術師団員は疲れた顔をしていたが、私の顔をみて明るさを取り戻す。
「さぁ、乗って出発よ!! 式典も杭も意地でも完成させるわよ!!」
狼狽していた私は、馬車の荷台から伸びた手に腕を掴まれ乗車する。そして静かに馬車は動き出した。
待って!? 聞いてた話と違う!! 立ってるだけじゃなかったの!?




