第47話 儀式の準備は進む
リビングのソファにかけながら、結界杭に魔力を込めていると……
「はっ……メル! 隙あり!! 魔力を吸わせろ!!」
前方からアーリィが走ってくる音が聞こえる。
(い、今!? だけどごめん! 構えない! 集中しなくちゃ……)
だが、彼の気配は途中で何者かに止められる。
「ふがっ!!」
「こら〜! ダメ~っ! メルは今お仕事中じゃ」
「そうですよ? 二人とも。メルは集中してるので静かにしてください。ルイスにチクりますよ?」
「「は~い」」
こんな調子で、空き時間を見つけては、結界杭に魔力を注いでいた。
やはり腕の魔晶石が減ったおかげで、魔法の扱いが格段にスムーズだ。もしかしたら、大魔法も使えるかもしれない!
「……メル? 集中!」
いけない。浮かれているのがバレてしまった。流石フローティア。長い付き合いだけあって、集中が切れる頃合いを把握されている!
私は祈りの力と、魔力の流れを意識しながら、杭に力を籠め続けた。
王都では無事に新たな聖女様が就任し、国民は喜びに満ちていた。前聖女の暗い事件を払拭するかのように、新聖女の門出は華やかなものとなった。
◆
それから一週間後。無事、結界杭には魔力がたんまりと込められた。
そして、新聖女の初仕事。魔界の扉の封印の儀式が執り行われる。旧聖女の私は……
「――風の精と戯れて揺れしもの。我が望む色に変れ」
一陣の風が私を吹き抜けると髪の色が黄金色に変った。
ルイスとアーリィ、ムーナは目を丸くしてこの様子を眺める。フローだけは慣れたもので、私の周りをクルクルまわり、チェックする。
「眉毛も睫毛もバッチリです。式典衣装も問題ないです」
さすが元聖女担当の侍女だ。彼女が居なかったらこの服も幾つか着こなしを間違えていたので危なかった。
今日の私は、王宮魔術師の白とグリーンを基調とした式典衣装を身に纏う。更に金髪へと髪色を変え、そばかすのメイクもしているので、元聖女だと分からない。不安そうにしていたルイスもこの姿を見て、表情が明るくなった。
「かなり印象が変わるんだな……だが、目立った行動は控えてくれよ? それに声にも気を付けてくれ」
「大丈夫! 今日は黙って立ってるだけだから。じゃあ三人とも、今日は留守番お願いね?」
今回フロー・ムーナ・アーリィの三名は留守番となった。フローの事だからてっきり一緒に来てくれるものと思ったのに。
ルイスも私と同じ考えだったのか、何か企んでそうなフローに釘を刺す。
「フロー。まさかと思うが……本気で留守を頼んだぞ?」
「そんな釘を刺さなくても大丈夫です。二人の面倒は私が見ます」
フローが目を細めながら答えた。更にアーリィもルイスに噛みつく。
「俺だって子供じゃないんだ。フローに面倒を見られるだなんて……ぐふぅ!」
「わかったのじゃ〜! フローの言う事を聞いて大人しくするのじゃ!」
嫌な予感しかしないが……三人とも大丈夫と言っているので彼らを信じ、私とルイスは乾いた笑みを浮かべながら日の出と共に出発した。
◆
馬車に揺られ数時間後、久々の王都に到着する。街は新聖女の誕生を祝して、華やかに飾りつけられていた。人々の顔も笑顔が多く活気に満ちている。
その笑顔を見てほっとしていると、馬車が止まった。ルイスが馬車から降りるのをエスコートしてくれるが、彼の様子がおかしい。
「ええっと……」
「ティアお呼び下さい。ルイス様。今日は魔術師のティアです」
そう言って彼に笑いかける。
王都で『メル』『フロー』とも呼べない! この名前は城を抜け出して街で遊ぶ際に使っていた偽名だ。ルイスは目を丸くしたが、軽く咳払いをして第三騎士団・副団長の顔になった。
「ティア嬢。お手をどうぞ。マジェンダ大臣の元へご案内します」
私はルイスに先導されて王宮騎士団が居る建物へと入って行く。
聖女暗殺からの魔境暮らしで私はすっかり忘れて居た。王宮魔術師団という集団を……。




