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死んだ聖女は天使と遊ぶ ~犯人を捜したいのに、スローライフを強いられます!~  作者: 雪村灯里
第一章 聖女暗殺

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第4話 ただ、もう一度会いたくて……

 魔法店の魔女・ドロシーが仮眠を取っている間、私は魔法陣の修正を続けた。予定より早く修正が終り、今はドロシーが自由に読んでいいと言った書斎の本を読んでいる。


 聖女の力があるのに、なぜ私が魔法に執着するのかというと……この国を取り巻く情勢はあまりよろしくない。


 自然豊かで資源が豊富なこの国は、水面下で周囲の国々から狙われている。更には魔界と繋がる扉も国内に存在している為、時々魔物がやって来るなど問題が山積みだ。


 聖女の力は魔物や呪いなどの(よこしま)な存在から人々を守る事はできるが、人間からは守れない……。


 しかし、強大な魔力を持つ聖女が、魔法を得意とするとなったら話は別だ。その存在は他国や魔界からの侵略の抑止力となり、そのおかげで平和が保たれてるとも聞かされた。


 そう聞かされたら、強くなるしかないよね? それに私には、魔法と聖女の力以外誇れるものが無い。


 ◇ ◇ ◇


 本を読み終わる頃には、空が白み始めてきた。ドロシーも目覚めて、寝室からリビングに戻ってくる。


「ティア、おはよう。魔法陣の修正終わったのかい!? まぁ……綻びも無い。体調はどう? 無理をすると倒れてしまうよ?」

「おはよう。大丈夫だよ! 体力があるのも私の取り柄だから。それより召喚魔法やろう」


 おばぁは困った顔で笑うと「仕方ないわね」といって私を手招きした。


 私とおばぁは庭に出ると、召喚魔法の準備をする。大きく魔法陣が描かれた紙を広げて地面に敷いた。私はその前に(ひざまず)き、祈るように両手を組む。


「いい? 急激に魔力を練ると、私みたいになるから、徐々に魔力を練るんだよ?」


 おばぁの右腕は一部が青い宝石の様に固くなっている。これは強い魔術師や魔法戦士に見られる症状――魔石化だ。


 流れる魔力がその人のキャパを越えると、体の組織が変形・宝石化してしまう。一度そうなると治らないし、魔力の流れも変わって高度な魔法の扱いは難しくなってしまう。私は真顔でこくりと頷いた。


「無理だと分かったら、すぐに魔法陣を壊すんだよ?」


 そう言って彼女は(かたわ)らに小さなナイフを置く。


「ドロシー。始めるね」

「ええ、がんばって」


 私は呼吸を整えて、召喚魔法の詠唱を始める。


 召喚魔法は異界から召喚獣を呼んで契約・使役するものだ。これはかなり上級向け。今回、何が出て来るかはお楽しみ。


 それに、呼び出したモノと信頼関係が築けない場合は、それと戦いが始まってしまう。力ずくで使役することが出来ればラッキー。最悪は命を落とす。


 言葉を紡ぐ度に体中に痺れるような痛みが走り、魔力を取られていく。無事に詠唱が終り、瞼を開けた。私の魔力を吸った魔法陣が白く輝いている。


「……お願い、来て!! 私の相棒になってください!!」


 私は仕上げに印を結んで、魔法陣に魔力を流し込む。すると魔法陣から天に向かい光が放たれるが……



 スンッ……



 光が……き、消えた!?


 空から白い羽根が一枚、ひらひらと舞いおりて、魔法陣の上にはらりと落ちる。私は魔法陣と空を交互に見る。空中に何か居る訳でもなかった。


 じゃあ後ろ? と思い振り向くと、そこには困った顔をしたドロシー。


「ティア、どうやら失敗したみたいだね……」

「えぇ!! 嘘でしょ!? 魔力の無駄遣いで終わったの!? あー……」


(えぐいよ~。なんでぇ~??)


 私は地面にバタンと倒れ込む。空が明るくなってきた。


(まずい! 夜明けが近い!! フローに怒られる!!)


「おばぁ、ごめん! 私、帰らなきゃ!! 今日もありがとう! また、魔法陣改善出来たら連絡するね!!」

「わかったわ。気を付けて帰るんだよ」


 私はふらつきながらも杖に乗り、猛スピードで城へと向かう。


 ◇ ◇ ◇

 

 寝不足に、魔力を悪戯(いたずら)に消費しただけなんてっ! あんまりだ!!


 ぶつぶつとボヤきながら飛んでいると、城が近づく。だけど、違和感を感じた。早朝だというのに人が多い。大聖堂の方で何かあったようだった。それに私の部屋に誰かいる。


 私は庭の木陰に降り立って、大聖堂の近くで耳を(そばだ)てた。


「大変だ! 大聖堂で聖女様が殺された!!」

「魔術医を早く!! それに国王様にも連絡を!!」

「朝の勤めの為に、中に入ったらっ……聖女様が冷たくなってて……」


 (え? 聖女(わたし)が殺された?)


 丁度、近くを私の侍女たちが走って行ったので、フローティアの姿のまま彼女達の後ろを付いて行った。


 きっと、何かの間違い。フローは生きているはず。


 大聖堂に入ると数人の騎士が人が近づけないように規制線を張り、その奥に倒れている人影が見えた。


 白いネグリジェに薄桃色の髪。あの姿は私に化けたフローだ。口から流れ落ちた血が黒ずんでいる。


(なんで? ……嘘だ……あぁ……血の色からしてもうだめだ……魂が体から離れている。治癒魔法も効かない……えっ、待って? フローティアが――――死んだ?)



「お願いです! 通してください!!」


 昨晩の呆れながらも微笑む彼女が脳裏をよぎった。


(嘘でしょ? もう会えないの??)


 手が震えて、喉が締め付けられるように痛い。彼女の元に向かい走るが制止される。


「お願い! 離して!!」


(これから先も、ずっと一緒だと思ったのに!! ごめん! 私が交換しようって言ったから!!!)


「嘘よ! そんな……こんな事って……なぜあなたが?……聖女は……」


『……ダメ』


 ◇ ◇ ◇


 目が覚めると医務室の天井が見えた。


 どれぐらい眠っていたのだろう?  窓から見える景色は……お昼に近い。 確か……倒れて医務室に運ばれたんだ。早く大聖堂に戻らなきゃ。


 私は重い体を起こすとそこには――


「お帰りなさい、メル。まぁ~た、徹夜で本でも読んでいたんですか?」


 フローティアが居た。

お手に取ってくださりありがとうございます。もしよろしかったら、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

明日からは1日1話21:00更新の予定です。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

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