第46話 気になるものは、やはり気になる
新しい聖女の誕生を告げる知らせが国中を駆け巡った。
伝書魔法の鳥が国内の町や村に飛びまわる。だが、魔境たるこの屋敷に知らせは来ず、仕事帰りのルイスが号外の新聞を持って帰ってきた。
私とフローティアは新聞をテーブルに広げ記事を読む。そこには新しい聖女の肖像画も載っていた。16歳のあどけない少女だ。新聞にはシアン大臣から聖女に向けて一言書いており『新時代の聖女に期待している』と。
「なぁにが、新時代の聖女ですか。反聖女派のクセに」
「まぁまぁ……知らせが出たと言う事は、今後のスケジュールも決まったんだね?」
旧時代の聖女の代わりに死んだ者はぼやき、旧時代の聖女が宥め、帰ってきたばかりのルイスに尋ねた。ここ最近は彼も忙しく、目の下に薄らと疲れが浮かんでいた。
「ああ。来週、聖女任命式典がある。さらにその一週間後に魔界の扉の封印の儀が執り行われる。城は大忙しだ。それに最近は国王もイェロー大臣も体調を崩して、シアン大臣が仕切り出したから余計に忙しくてな」
それを聞いて三人して顔を曇らせた。
玄関の方から声が聞こえる。人間の姿になり、体から湯気を発しているアーリィが部屋にやって来た。
「疲れた~。メル~魔力が足らねーよ」
ルイスも忙しければ、その秘書兼運送役の彼も忙しい訳で。彼は私に向けて両手を広げたので、すかさず好物の果物と、祈りの効果を付与したポーションを差し出した。
「アーリィ、お疲れ様」
「くっ……いただきます! 身体に染みるぅ」
アーリィは気持ちのいい飲みっぷりを見せた。相当お疲れだ……
「メル、クラウス様から届け物だ」
そう言ってルイスは小脇に抱えていた荷物を私に差し出した。長い棒のような物が布で巻かれている。それと布袋も。
(この包みは……)
スルスルと包みを解くと、中から90cm程の装飾された杭が現われた。魔除けのモチーフが彫られ、赤い魔法石がはめ込まれている。
「約束していた結界杭だね? 綺麗……でも予備じゃなくて新品だ。魔力が籠ってない」
「ああ、予備は持ちだせないから、一から作ったらしい。クラウス様からマジェンダ大臣に依頼が飛んだんだ。王宮魔術師団の工房で秘密裏に造られたそうだ。あそこはマジェンダ大臣の聖域だから、誰も邪魔できない」
これだけのものを短期間で!? きっと夜を徹して造ったのだろう。工房の魔術師達に頭が上がらない。
「その杭に魔力を込めるんだろう? 封印の儀までは一週間だが間に合いそうか?」
ムゥーナのお陰で腕の魔晶石は殆ど消えていた。まだ不安で全力では魔法を使っていないが、杭に魔力を込めるのなら問題ないだろう。
「魔力を込めて仕上げるのは大丈夫。でも、聖女様が任命されたらルイスも忙しくなっちゃうよね? 体、大丈夫?」
「……え? 僕は問題ない。新しい聖女様はメル程お転婆ではないから護衛が楽だ」
(――うっ!! そ、その節は大変申し訳ございませんでした……)
「それにアーリィのお陰で移動はかなり楽になった。心配は無用だが心遣い感謝する。だが、さすがに式典や儀式前後は忙しい。僕達で封印をかけに行くのは更にそのあとで……」
「ううん、私も儀式に一緒に行く事になるみたい」
「なんだって? そんなこと!?」
結界杭と一緒に包まれていた布袋の中には、王宮魔術師の式典装束と病魔除けの護符が2つ、それに一通の手紙が入っていた。
―――クロフォード君へ
杭の出来栄えはどうだろうか? 実は王宮魔術師が忙しく一人倒れた。彼女の代わりに封印の式典に参加できる者を探している。難しい事はない、この装束を着て黙って立っているだけで十分だ。金髪の女性だと尚よい。
あと病魔除けの護符を二つ渡す。聡明な君たちなら分かってくれるだろう。くれぐれも頼んだよ。
マジェンダより――
これを見たルイスは絶句し、フローも呆れ顔だ。
「これは……」
「彼女も感づいたようですね。なかなか図太い……」
「マジェンダ大臣が一枚噛むなら私も上手く紛れる事が出来るよ。それにこの装束なら顔も隠せるし、髪も金髪するからバレないでしょう。それに私、魔物避けにはぴったりだし!」
そう言いながら、病魔除けの護符を取り出し両手で包み祈った。
――どうかこの護符を持つ者を病と悪意から守りたまえ
「はぁ……みんな自分勝手ですね」
「しょうがないよ。国のピンチに立ち向かっているんだから。それに当日はルイスもいるから安心だよ。と言う事でよろしくね」
「ああ仕方ない……僕は部屋で警備の計画を確認してくる……」
「メル?なんで儀式の参加に前向きなんです?」
「だって、お世話になった人たちのピンチだからさ。はははは……」
だってそれは気になってしまうもの……
古巣がどうなっているかと、新しい聖女様が。




