第42話 ルイスと二人で……
針仕事をしていると、ルイスが話しかけて来た。
「メル……。例の件だが、明後日でどうだろう?」
「うん、いいよ」
この様子を見ていたフローは口をあんぐりと開けて絶句する。
そして、ルイスをキッと睨むと、彼をポカポカと叩き始めた。ルイスは迷惑そうな顔をしているが、霊体の彼女から受けるダメージは皆無だ。
近くでパンを齧っていたアーリィも、目から歯ぎしりが聞こえそうな形相でルイスを睨んだ。シーツを纏ったムーナだけが平和な顔で、日の差し込む窓辺の床に転がっていた。
「私の知らない所で秘密の話ですか? この裏切り者! 肉体があるからって!!」
「俺の……おん……主をっ!」
「な、何だ? 二人とも!? 僕はただ……」
そう、ルイスは私を買い物に付き合わせたいだけなのだ。私は慌てて二人の誤解を解く。
「二人とも落ち着いて!! 買い物の話だから! ルイス、昨日聞いていた話だよね? 休みとれたんだね??」
「「え?」」
私は昨日彼から打診されていたのだ。『ムーナの服を買いに行くので、手伝ってほしい』と。
ムーナは私より背が高い。それにスタイルも良いので私の服だと丈が足りない。何より胸のボタンが閉まらないのだ。説明していて悲しくなってきた。
彼女は『服はいらな~い。これをまいておけばいいのだろう?』などと……見た目は色っぽいお姉さんなので、みんな目のやり場に困ってしまう。
ちなみにアーリィはルイスのおさがりを無理矢理着ていたが、最近服を仕立てて貰ったようで、何かにつけては私達に服を見せに来て可愛かった。
「はぁ……ただの買い物ですか」
「そうだよ? ただの買い出し」
「おしゃれして出かけるんですか?」
「え? 買い出しだし、明日はフローの格好してくよ? ね? ルイス」
「「…………」」
フローとルイスの間に妙な空気が流れる。さっきまでは尖っていたフローの空気が丸くなった。哀愁すら感じる。ルイスは少々残念そうな顔をしていた。
(―――? 私、変な返事でもした?)
「まぁ、そう言う事なら許しましょう……」
「はぁ……と言う事だから、フローには留守を頼む」
「え? 私も行きたいです!」
「今回ムゥは連れて行く訳に行かないし、アーリィも最近働きづめだったから彼も置いていきたい。焼き菓子で手を打ってくれないか?」
「二人っきり……う、裏切りの香りがしますが、いいでしょう。私の心は広いです。お土産は焼き菓子の他にプラスアルファでお願いします。それなら交渉に合意しましょう」
フローは平静を取り繕いながら答えたが、難しい表情をしている。そんなに悩む事ではないと思うが。だがルイスも彼女との取引方法をわかってらっしゃる。
「と、言う事でメル。僕と二人で出かけるから当日は頼んだ」
「うん! こちらこそよろしく!」
ルイスは心なしか、いつもより嬉しそうだった。




