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死んだ聖女は天使と遊ぶ ~犯人を捜したいのに、スローライフを強いられます!~  作者: 雪村灯里
第二章 魔界de強制スローライフ

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第40話 ブラウスの釦は今にもはじけ飛びそうだ

窮屈きゅうくつだのぅ……」


 人の姿をしたムーナが現れた! 彼女には私の服を着てもらっているが、バストがきつそうだ。ブラウスのボタンを全部閉めず、胸元を緩めていた。それでも今にもボタンがはじけ飛びそう。私とアーリィはそんなボタンをソワソワと見つめる。

 

 私達5人は状況を確認するためにテーブルを囲み席に付いた。


 武装を解いたルイスとフローは厳しい表情でムーナを見ているが、当の本人は呑気に私の右腕を触っている。ルイスが口を開いた。


「さぁ、ムーナ、君について詳しく教えてもらおうか? なぜ人の姿になった?」


「むぅ?……ルイスこわいぞぉ? 人の姿の方が過ごしやすいじゃろぅ? 手伝いできるからのぅ! 今までは魔力不足でけものの姿をしておったが、メルの魔力を食べてやっと大きくなれたのじゃ」


「魔力を食べた? 私の腕に出来た結晶の事?」


  昨日までのムーナは、私の腕から生える魔力が宝石化した結晶を、ぼりぼりと食べていた。今ではすっかり綺麗になり、少しの欠片を残すばかりとなったけど……


「そうじゃ!」


「ムーナは何者なの?」

「言ったでおろう? わらわは魔の者じゃ♪ こちらの言葉だと魔族というかのう?」


「「魔族!?」」


(魔物じゃなくて!?)


  魔族は魔物より上位の存在で魔王も魔族に当たる。そんなすごい存在が目の前に。フローとルイスにも緊張が走る。


「どうやってこっちの世界に? 召喚? それとも扉から??」


「妾達は扉から引きずり出されたのじゃ! 召喚で呼び出すには魔力が足らなかったのじゃろう」


「引きずり出された? 妾()!? 他にも一緒に来た仲間が居るの??」


「うむ! 番犬ケルベロスじゃ!」


 ケルベロス……犬に似た巨大な魔物だが、一つの体に3つの頭が付いるらしい。伝説の魔物だ。


「妾はケルベロスと遊んでおったのじゃ! ケルベロスが、何者かに扉の隙間から引っ張られてのう。止めようとしたら、妾も巻き込まれて魂の一部が欠けてこちらの世界に来てしまったのじゃ」


「「「魂が欠けた!?」」」


「そうじゃ! あんな狭い所通るからのう。勿論ケルベロスも無事では無くて、3体に分かれてしまった。しかもケルベロスは引きずり出した張本人が無理矢理使役して攫って行ってのう。 妾だけ置いてけぼりじゃ」


「魔界の扉を通れたならその場で、帰る事が出来たんじゃないか?」


 確かに、ルイスの言う通りだ。ムーナはしょんぼりしながら答える。


「出来たが……あの姿で魔界に戻っても、本体に合流する前に他の魔物に喰われてしまう。それにケルベロス達も取り返さないと! こちらの世界では思う様に魔力を補填ほてんできず苦しんでいるからのう」


 確かにそうだ。この森に居ればあの泉から魔力の補給は出来るかもしれないが、他は分からない。


「ムーナ、ケルベロスは誰に連れて行かれたか分かるの?」


「うむ! 金髪の癖毛に眼鏡を掛けた屍術師の若い男じゃ。ルイスと同じくらいの年かのぅ」


「「「!!!」」」


 私達は顔を見合わせた。その特徴と合致する人物を一人知っていた。


「それっていつの話?」

「2カ月位前じゃ」


 フローが殺されたのが約1か月前。


「妾も困っていたのじゃ。無理やり引きずり出した癖に『魔王が良かった』とか言って放られたのじゃ! 酷い奴よ!! 暫く身を潜めながら森を彷徨っていたら。強い魔力を感じてのう? それがメルじゃった! はらペコの妾はメルの魔晶石に助けられたのじゃ! そして今に至るのじゃ!」


 ムーナはどうだっ!と自慢するように胸を張った。それと同時にボタンが一つ飛んでアーリィの額に当たった。私は慌てて羽織っていたストールでムーナを覆う。


 なるほど。ムーナの食料は私に出来た結晶『魔晶石』だったのか。私の魔力を食べられると興味を持ったアーリィがムーナに尋ねた。


「その石、喰えたのか!?」

「うむ! 聖女の石は格別よ!」


 右腕に熱視線を感じるが今は放っておこう。


「ムーナはこれからどうするの? 魔界に帰るの? それともケルベロスを探すの?」


「むぅ? 全部じゃ! ケルベロスを取り戻して魔界に帰る!……だが、弱った妾を放ったあの男に仕置きをしたいのう」


 ムーナはその美しい顔に似合わない、悪い笑みを浮かべていた。彼女の目的とする男はフローを殺したベルメールだ。彼も犬型の魔物を連れていた。ここまで偶然が重なることも無い。


「じゃが、その前にもっと魔力を蓄えないといけないのう。メルの腕にはまだ魔晶石がのこっておる! それは妾のものじゃ! 残らず頂く!――と言う事で、これからもよろしくたのむのう♡」


 こうして、この屋敷はまた賑やかになった。

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