第39話 寒い朝に美女は現れる
最近、寒くて起きるのが辛くなってきた。
でも、起きて泉に祈りに行かなきゃ……魔物に好かれるのはいいけど、泉が枯れては困る……でも誰がこんなに温かくていい香りのする布団から抜け出せようか。
(ん? 香り??)
いつもと違う要素を嗅ぎ取った私は重い瞼を開ける。すると……私の隣で美人のお姉さんがスヤスヤと寝ていた。しかも裸。
(なんだ、美人のお姉さんか……)
私の右腕に、彼女の白くてしなやかな腕が絡んでいる。あったかくてスベスベで気持ちいい。――じ・ゃ・な・く・て!!
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
私は叫びながら飛び起きてベッドから転げ落ちる。寒さも吹っ飛んだ。恐る恐るベッドを覗き込むと……私の悲鳴で、美女も目を覚ましたようだった。赤い瞳が私を見つめて、にっこりと笑う。
「おはよ~。メル♪」
ミルクティー色と白い髪が混ざり合った長いストレートヘアに一対の角。年頃は私より少し上の20代半ば。妖艶な空気を纏う女性だった。
優しく微笑まれて、思わずドキッとしてしまう。かろうじて「お、おはようございます……」と言えた。
(敵意は感じないけど……綺麗……何がとは言わないけど、大きい! 目のやり場に困るよ~~~!)
狼狽えていると背後から声が聞こえた。
「貴女、何者ですか!?」
フローティアが壁をすり抜けて飛んで来た。鎧を纏った姿で剣を美女に構える。そして、遅れて扉が乱暴に開きルイスとアーリィが飛び込んで来た。私はブランケットで美女の体を隠す。
「何事だ! メル無事か? こちらへ……」
「なんだこのねーちゃん! 魔力がむんむんじゃねーか! しかもメルの……美味そうなねーちゃんだな……でもこの匂い」
「こらっ! アーリィ!!」
「す、すまん。俺はメルの方が旨そうだと思っている」
「もう! そう言う事じゃなくて……あれ? ムーナが居ない!?」
昨日も私のベッドに潜り込んで眠っていた筈なんだけど……
「妾ならいるぞ? みんなどうした?」
私達は彼女が紡いだ言葉に驚く。声は少し変わっているが……
「「「ムーナ?」」」
「そうじゃ~。おはよう」
そう言ってムーナは上体を起こした。その瞬間に彼女を覆っていたブランケットがパサリとおちる。人間の姿、しかも一糸まとわぬ彼女を見たルイスはすぐ顔を背けたが……アーリィは釘づけだった。気持ちは分かる。でもそこは堪えて!!
「アーリィ! 見ちゃダメ! ムーナも裸なんだから隠そう!? くしゅん! 」
また、朝からとんでもない事が起きたのであった。




