第38話 魔境の森の異変
私達は魔界の扉の偵察から戻ると、一目散にリビングの日向でまったりと寛ぐムーナの元へ向かった。
「みんなお帰りなの~♪」
「ただいまムーナ! あのね? ムーナに教えて欲しい事があるの」
私達は彼女をミルクティー色のモフモフとした可愛い癒し系と認識しているが、本来はこの森に居た魔物だ。
「ムゥ、魔物がメルを襲わない理由は分かりますか?」
3人は固唾を飲んでムーナを見守る。
「むぅ? 泉の水を飲んだ魔物はメルが大好きになる~。メルが居なくなったら泉の水が飲めな~い! 魔物、泉の水大好き~! 魔物は魔力の味忘れなあ~い」
(ああ……やっぱり……)
私達は頭を抱えた。だから、森の魔物は私を襲わなくなったのか。
頭を抱えていると、起きて来たアーリィもリビングにやって来た。
「おう、おかえり。どうしたんだ? ルイスとメルは頭を抱えて」
「おはよう、アーリィ。今ムゥーナから、森の魔物が私を襲わない理由について聞いていたの」
「ああ。あの水、微弱な魔力が流れているからな。魔物はこっちの世界では魔力を補う方法が限られてるし。あの水が魔力を回復するのに手っ取り早い」
「そうだったのか、魔物は魔力を自然に回復することが出来ないのか?」
「自然に回復はするが、スピードが違う。魔界に居る時より断然遅くなるらしい。だから直接魔力を摂取するんだ。でも、泉の水はまだいいが、この屋敷の果実はヤバい」
「なんで??」
「メルの魔力が濃すぎて……あれは媚薬に近い」
「「「媚……」」」
3人して絶句した。そんなものをアーリィに!?
「アーリィ、本当にごめんね?」
「いいんだぜ、美味かったから。それにこうやって、いつでも味見できるようになったからな」
彼はドヤ顔で答え、私の右手を取ると手の甲に口づけした。
「舐めてぇ……ぼふぅぅぅぅ」
何かつぶやいた彼の顔にムーナが飛びつく。
「そう~! 魔物、メルを独り占めした~い」
「ふむ、魔物達の間でもメルの争奪戦が同時開催って訳ですね?」
そんな争奪戦、即時中止してほしい。
片方の眉を吊り上げ面倒臭そうな顔をしたフローがルイスを見る。彼も厄介事が増えたと言わんばかりに肩を落した。
「だが、魔物達の争奪戦が始まっているならば逆にメルは何故無事なんだ?」
「妾、つよ~い!だからみんなこな~い!メルは妾がまもる~!」
ムーナはぴょんと私の胸に飛びつくと小さな体でぎゅっと抱きしめてきた。
あぁぁぁぁ! かわいい。
「ああ、確かに俺と毛玉とヤギが近くに居るからな。皆、匂いで警戒して来ないんだろう」
「成程な、それで平和に保たれていると。魔物に襲われない事に越したことは無いが、そんな事になっていたとは……」
「俺達にとっては魔性の女だ……ふごっ」
「天然の魔物避けが完成したのですね」
魔物避け!? 言われてみればそうであるが言い方があると思う。
「メル、もうあの果物たちは門外不出にしましょう」
「そうだね。それに、不用意に聖女の力を使わない様にするよ……」
もの事は本人が意図しない形で進んでいる事が多い。このほかにも、知らないうちに、私の魔力はとんでもないことを起すのだった。




