第3話 聖女と魔女の師弟関係
城を抜け出した私は、気持ち良~く鼻歌を歌いながら夜間飛行を楽しんでいる。すると、遠くで淡く輝く光のヴェールが見えた。
「結界の調子、今日も良さそうだな~♪」
まぁ、結界を張っているのは、私なんですけどね? 聖女の力である『守り』と『祓い清め』を使ってます。
護国の聖女の大きな役割は『祓い清め、祈り、守り』3つの力を用いて国を護る事。
国境と主要な町、そして魔界の扉に結界を張って、この国に邪なモノが入ってこない様に守っているのだ!
この国の聖女は、女神様からの神託によって決められる。神託で示された特徴を持つ人物を探し当てると、私のように魔力が強く聖女の力が使える女性が見つかるのだ。不思議な話しだよね?
結界で守る以外のお仕事は、国の催事や式典への参加と……これは聖女の個性にも依るけど、冒険者パーティーが拾ってきた呪いの品のを浄化したり、勇者(予定)に武器を強化して渡したり、ポーションなどの回復アイテムに付加効果を付けて作ったり、エトセトラ。多岐に渡る。
聖女としての生活も、やりがいと充実感があって好きだけど……堅苦しく自由が少ない。
なので、聖女ではないこの時間がとても楽しい。背中に羽でも生えたかのように体も心も軽い! 門限が無ければ、文字通りどこまでも飛んで行くのにな。
(なんて言ったら、フローティアに怒られちゃう)
しかし、楽しい夜行飛行もあっという間に終わってしまった。町はずれの魔法店に到着する。
その建物は蔦に覆われて、軒下には色とりどりの光を灯すランプが吊り下げられている。不思議な空気を纏う店だ。
魔法店とは、魔法に関わる本屋や道具、薬草や鉱物などを販売しているお店。
この世界の人間は当たり前のように魔法を使うけど、得意不得意はどうしてもある。それを補うために魔法道具を利用するのだ!
私は店の裏口に回り、軽くドアをノックする。
「おばぁ!こんばんわ。ティアだよ~!!」
私は聖女だとバレてはいけないので『ティア』と名乗っている。
ノックして少しすると、扉がガチャリと開く。その隙間から、濃い紫色のローブを着た、可愛らしい老婆が顔を覗かせた。
「あら、いらっしゃい。そろそろ来る頃だと思ったわ。中に入る前に庭の月下美人を見ていらっしゃいな」
「うん! 見る見る!!」
彼女の名前はドロシー。昔、王宮魔術師として働いていたらしい。現在は一線を退いて、町の魔法屋としてのんびり過ごしているそうだ。「ティアは孫みたいなものよ~」と、私を可愛がってくれる、優しい魔女だ。
二人で庭に飾られている月下美人の元に向かう。鉢に植えられた、中肉の長い葉を持つ植物からは、白く大きな花が咲いている。それは星明りに照らされて、神秘的な美しさだった。
「わぁ……! これが月下美人の花? きれい……」
「そうでしょう!? 花言葉が有るのよ?『ただ一度会いたくて』っていう」
月下美人は年に一度、夜に花開く。
「一夜限りしか咲かないから、その花言葉なの?」
「そうよ。ロマンティックよね? ティアもそう思える大切な人が現れるといいわね」
「う~ん、どうだろう? 私は魔法に夢中だからな~。恋とかそう言うの分からないや」
聖女の塔に長く引きこもっているから、出会いも無い。今まで燃えるような恋も悲しい別れもしたことが無い。いまいちピンと来なかった。
「ねぇ、おばぁ! 召喚魔法陣を考えて来たんだけど見て欲しいの」
「あら? もう考えちゃったの? いいわよ、中にお入りなさい」
彼女の作業部屋に通されると、私は机の上に持ってきたノートを広げた。
「この魔法陣どう思う? これなら前回、魔力のロスが出てた部分が改善されるし、もう少し実力がある召喚獣を呼べると思うんだよねぇ」
「ティアは熱心ね。私が現役なら王宮魔術師団に入れたかったわ」
――王宮魔術師団!
そう言われて私は「そんなぁ~。へへへ」と乾いた笑いを絞り出す。しかし内心ではビクビクしている。もう王宮内にいるからなぁ。
彼女は魔法陣を細かく見ながらチェックした。
「そうね、この魔法陣なら前回より精度が上がっているわ。でも、魔力の消費が多すぎるわね……」
「ん~。魔力消費。全然考えてなかった。そしたら……この部分を3つに分けて構成すれば、魔力を抑えられるかな?」
ドロシーと話していると、学ぶことが多くて楽しい。魔力の消費量なんて、ほんと気にしていなかった!彼女は私の提案を聞き、魔術式を計算している。
「制御が難しいけど……かなり改善されるわ。今回は魔法陣を修正して本番は次回ね」
次回!? フローの許可がすぐとれるか分らないから、何とか今回召喚したい!!確かにかなり書き換え作業大変だケド……集中すれば出来なくもない。いや、やる!! 私は孫っぽくゴネた。
「大丈夫! これ位なら一晩で……出来るよっ! 明日の夜明けに間に合わせるからさ~。ねぇ、おねがいっ」
「そうね~……万が一明け方までに修正が終ればね? 間違ってたり、ティアの体調が悪い時は次回にするわよ?」
「うん! 分かった!!」
やった~! よし!修正頑張るぞ!! これが成功すれば、私も召喚獣を得る事に成る。 非常に楽しみだっ!! 私が召喚獣を使役したらみんな驚くだろう。また一つ強くなれるぞ!!
――などと、この時は浅はかに考えいた。




