第34話 上空は凍えるほど寒い!
「ぴゃ~!しゃむ~い!!」
「まぁ、そうですよね。この高度とスピードで北上するんですもの」
私達は今、ドラゴンの姿に戻ったアーリィの背に乗って空を飛んでいる。
ムーナの悲鳴の通り、目的地に近づくごとに空気は冷えていく。フローは寒さを感じない為、涼しい顔をしていた。彼女は寒さの概念を思い出しながら、私の隣に浮かんでいるのだろう。
王都を過ぎると山が多くなり、遠くに見える山の頂は美しく雪化粧している。さすが速さを誇るアーリィ。頬を撫ぜる風は冷たく痛い。でも、鞄の中に居るムーナと背後に居るルイスのお陰で私は暖かかった。
「ムーナ、もうちょっとだから頑張ろうね?」
私はローブで彼女が入ったカバンを包む様にして暖めた。
◆
「よく頑張った。皆、もうすぐだ」
どれくらい飛んだだろう。ルイスの言葉通り、遠くに小さく街が見えてきた。だが街中では着陸できない。ドラゴンが現れたとパニックになる! なので、私達は少し離れた開けた土地に着陸した。
「みんな長時間お疲れ様。あれが北都サイレンだ」
アーリィの背から降りて、ルイスが指さす方を見た。石と木で造られた建物が多く並ぶ街だ。その為街は、全体的に石の灰色が多い。でもその暗さを打ち消すように、明るい屋根の色がアクセントとなり、街は穏やかな空気を纏っていた。
「ここがサイレン。本では読んだことあったけど初めて来た」
「私も来るの初めてです。まさか死後に来れるとは思いませんでした。長く生きるものですね」
私はフローのゴーストジョークに「ははは……」と困り顔で笑った。
談笑をしていると背後で空気が大きく動いた。驚いて振り向くとルイスの胸にぶつかった。
「今、アーリィが着替えてるからもう少し街を見ていてくれ」
そう言われて気付いた。あ! ドラゴンの状態って、人間でいう裸と同じなんだと。
ゆっくりと視線を街へ戻し、フローと話しているとアーリィの声が聞こえてきた。
「あ~! 服、面倒どくせぇ。上はいいだろ? 着替え終わったぜ」
3人して振り向くと上半身裸のアーリィがいた。彼からはほかほかと湯気が立っている。あれだけの距離を飛んだら暑くなるよね。
暑そうな彼に、寒がりのムーナはぴょんと飛び乗った。
「あっち~!! こら毛玉! 暑いんだからくっつくな!!」
「やだ~!! アーリィあったか~い♪」
「さすが予定通りだ。アーリィご苦労だったな」
「ふん! まぁな。なぁ、それより褒美は? 今日はいつもより長く飛んだんだからイイだろ?」
息が荒いアーリィはルイスを押しのけずいっと私に近づく。大きな彼の手は私の腕を掴んで引き寄せた。その様子を見てルイスとフローがざわついた。
「こら! アーリィ!」
「そうですよ!!」
「うるせぇ! 腹が減ってるんだ!!」
「やっぱり、お腹空くよね? いいよ?」
「「「はぁ!?」」」
「あれだけの長距離飛んだらさすがに疲れるよね…… アーリィのおかげではやく着いたよ! これ食べてゆっくり休んで」
私は鞄の中に仕舞っていた、ポーションと果樹園で取れたリンゴを渡した。もちろん! 聖女の祈りのバフ付きです!! どうでしょう!?
私はドヤ顔でアーリィを見つめた。こんな事が有ろうと準備していたのだ。遠足に“おやつ”はつきものだと、何かの本で読んだ。
「ああ! もう!! 調子狂うぅぅぅぅ!!!」
「え? 要らなかった??」
「いるよ! ありがとなっ」
アーリィはポーションを喉に流し込むと、リンゴをむしゃむしゃと食べ始めた。
私はルイスとフローに向けて、Vサインを送るが……二人は飽きれた顔をしていた。その理由を、私は未だに理解できていない。




