第33話 黒い竜の背に乗って
とある日の午後、私は箒で庭を掃き清めていた。
雑草は地道に取り除いたので、スッキリ! でも、樹木からは木の葉がハラハラと舞い落ちてくる。秋だもの、こればかりは仕方ない。庭の片隅にあるガゼボに人影が……。ルイスだ!
彼は悩んでいるようで、険しい表情をしていた。それに、手には便箋をもっている。ルイスの考え事の邪魔をするわけにもいかず、私も彼を見ながらぼんやり考えた。
なぜ彼は私をこの屋敷で雇ったのだろう? ルイスから悪意は感じないけど……。疑問の小骨は私の心に刺さっていた。
本気で屋敷の修繕をするなら、もっと人数が居た方がいい。それは火を見るより明らかだ。もっと言う、とこの修繕に計画性を感じられない。急に屋敷を使う事になったのかな?
首を捻って考えていたら、ルイスと目が合ってしまった。まずい! サボっている所を見られてしまった。
私は慌てて彼に話しかける。
「ル、ルイスどうしたの? 悩み事?」
「……ああ、まあな」
「「……」」
二人の間に沈黙が流れる。ええっ!? なんで、微妙な空気になるの!? 悪いタイミングだった?
彼もそれを察したか、言いにくそうに告げた。
「メル、頼みがある。僕につきあって欲しい」
◆ ◇ ◆
「ほら、メル。準備できましたか? ルイスとアーリィが待ってます。早く行きますよ?」
「メル、フローとおそろい~」
私は右腕に絡みつくムーナを抱きかかえた。そう、彼女の言う通り、今の私はフローに変装しているのだ。久々のペールブルーの髪。もちろん睫毛と眉毛も忘れて居ない! 攻撃魔法はまだ制御が難しいけど、日常で使うような低カロリーの魔法や変身魔法は使える。
今日はみんなでお出かけ!……と言っても楽しいピクニックでは無い。
ルイスは騎士の制服を着てアーリィと話している。私はムーナを鞄の中に入れ、窮屈じゃないか尋ねた。鞄の口からぴょこっと顔を出した彼女はウキウキしている。
「ムーナも大丈夫そうだね」
「うむー!」
「さぁ、二人ともルイス達の元へ行きましょう」
私達はルイスの隣に駈け寄る。入れ替わりにアーリィが私達から小走りで離れると、私はルイスに目隠しされた。
「レディーにはお見せできない」
ん? アーリィが居る方角で空気と魔力の動きを感じた。
隣に居るフローがしみじみと呟く。
「まぁ、そうですね。ルイス、私もレディーなんですが」
「すまないメルを護るので精一杯だ。フローは自分で頑張れ。……はい、もう大丈夫」
ルイスの大きな手が離れると、アーリィが居た場所に見た事のある黒いドラゴンが現れた。
黒い体に金色の瞳。神秘と禍々しさを纏う荒々しい鱗と翼。
「わぁ……やっぱり大きいね。アーリィ、今日はよろしく!」
「ああ。やっと本来の主を載せられる。このまま攫って行くか」
ドラゴンの姿の彼はニカッと赤い口を開いて笑う。
本気なのか冗談なのか。冗談でお願いします。
「聞こえてるぞ。 僕が許すと思うか?」
「うっ……。ルイス……。今のはジョークだ」
ルイスはアーリィの足を伝い彼の背に乗る。だいぶ慣れたようだった。
「さあ、メル。手を」
私は彼の手を取ってアーリィの背に引っ張りあげっられる。
ドラゴンの背から見る景色は新鮮だ。
「わぁ……フローもおいでよ! ――ってあれ?」
「もう乗っていますよ。というか、乗れてればいいのですが……アーリィに置いてかれない様に今日は頑張ります」
フローは既に私の後ろに浮く様に立っていた。物理的に触れないフローはどうなってしまうのだろう。今日一番の心配な点である。
「さぁ、みんな乗ったな? アーリィ、我らの聖女を載せるんだ。よろしく頼む。さぁ、行こう! 北都にある女神寺院だ。メルがよく知っているあの人がいる」
寺院関連の知り合い……私は出身地の東都と王都の寺院にしか縁がない。北部と言う事は恐らく彼が居るのだろう。
私達を載せたアーリィは力強く羽ばたき空へと飛びだった。




