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死んだ聖女は天使と遊ぶ ~犯人を捜したいのに、スローライフを強いられます!~  作者: 雪村灯里
第二章 魔界de強制スローライフ

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第32話 乱暴者のドラゴンは意外と律儀

 私とダークドラゴン・アーリィとの主従契約が無事に締結された!


 私達はアーリィを連れて屋敷に戻ってきた。彼は不思議そうに屋敷の中を見渡しながら、一角に置いてある林檎が入った木箱を見つけて歓喜の声を上げる。


「うほっ! あの果物がこんなに!!!」


 アーリィが木箱の果物に手を伸ばそうとすると、フローティアとムーナがスッと割り込み、彼に注意した。


「むぅ、これはみんなの~」

「勝手に食べたら、ひっぱたきます」


 両者にらみ合いが続く。貴重な甘味を護るフローの目は真剣だ。私は彼らの間に割って入って仲裁する。


「逆にこれだけしかないから、次のシーズンまでは大切にみんなで仲良く食べよう?」

「メルが言うなら仕方ない。わかった……」


(もう、頼んだよー!)


 ◆ ◇ ◆


 みんなで少し遅い朝ごはんを食べる。果物だけでは足りなかったアーリィは目の前に出された朝食を喜んで食べた。見ていて気持ちのいい食べっぷりである。


「確か、メルが追い払ったドラゴンは、正真正銘のドラゴンでしたよね? なぜそんな姿に?」

「ああ、確かこの屋敷ぐらいの大きさが有ったよな」


 アーリィの恨み節を聞いていないフローとルイスは質問する。


 ダークドラゴンはその昔、魔王と共に魔界からやって来たドラゴンだ。魔王は魔界に帰っても彼らドラゴンはこの世界に残り、時折人前に現れては困らせた。


 私達の前に現れた時も、騎士団が苦戦するほど! 当時の彼は大きなドラゴンで、それはもう立派な黒い翼を持っていた。


「俺も知りたいよ! あの泉の水を飲むようになってからこんな姿になった。何か仕掛けがあるのか? あの泉。水が旨いし水量もあるし。魔力の味がメルと同じだ……」


「あの泉はメルが聖女の祈りを捧げています。メル? あの泉に、擬人化する祈りでもかけたんですか?」

「かけてないよぅ! かけていたら森の中は人の姿が多いでしょう!?」


 咄嗟に否定した。……が、待てよ? もしかしたら出来るのかな?? いや、試すわけには行かない。私は考えを振り払った。ルイスも彼に質問する。


「アーリィはドラゴンの姿に戻れないのか?」


(戻れないのは可哀そ……)


「腹と魔力がいっぱいになれば戻れるぞ。暫くまともに食えなかったからな。両方減ると本当の姿を維持できねェみたいだ」


 それを聞いて、私は力が抜けた。なんだ……戻れるんだ。

 自身の分をぺろりと平らげたアーリィは、フローの分の料理をチラチラとみている。フローにも伺いを立てるように彼女を見ていた。


「まったく、食べていいですよ。しかしあの大きさに戻れるなんて。決して屋敷の中では戻らないでくださいね?」

「あんがと……戻らねぇよ! 主の住処すみかだ。こわせねぇ」


 本当はルイスの家だけど。彼は乱暴だが意外と律儀なのかもしれない。


 黄色い鳥が窓をコツコツと叩く。言葉を運ぶ魔法の鳥だ。城でもルイスが使っていた通信手段でもある。

 彼は中座を詫びて、小さく窓を開け小鳥を室中へいざなう。小鳥も彼の指にとまると、手紙の姿になった。ルイスは目を通しそれを胸ポケットにしまった。


「失礼した。アーリィ、そう言えば魔力が籠った食べ物を食べると求婚になると言っていたが…… テイマーの知人に聞いたら初耳と言われてな」


 ルイスはニコニコとしながらアーリィに尋問する。

 アーリィは一瞬目を見開いたが軽く咳払いをして、たどたどしい言い訳をする。


「そ、それはそのテイマーが知らなかっただけなんじゃないのか?」

「いや、30年前に君と同じダークドラゴンをテイムした伝説の人物さ。今もドラゴンと一緒で意思の疎通も出来る。ほう……目的は魔力だけか?」


 それを聞いてフローとルイスは視線を合わせ頷いた。二人の間で何か気づいたらしい。ドラゴンも地域ごとにルールがあるって事じゃないのかな?


「ねぇ、ルイスもフローも二人して何? 何か変なの??」


 私の質問をアーリィは遮った。


「そ……んな事あるはずないだろ? 契約は各々決めるモンだ」

「そうなの?」

「よーく分かった。伏せておこう。それより、これからどうするんだ? アーリィ」

「もちろんメルの傍に仕えて、メルの命に従う」

「つまり、ここに住むと言う事か?」

「そうだ」


 ルイスとアーリィは真っ直ぐに目を見ながら話を進める。


「ここは俺の家だ。タダで住まわせるわけにもいかない」

「じゃあ、庭の小屋に住む」


「あそこはコクヨウの家なのでダメです。ちなみに彼は庭の保守を手伝ってくれる優秀な子です」


 フローはニヤリとしながら。コクヨウを自慢するように語った。確かに今日のコクヨウは優秀賞だ。


「分かった。主の命なら俺は何でも仕事をする。それならイイだろ?」

「ほう。何が得意なんだ?」

「空を飛ぶことだ。仲間の間では一番早い」


 確かに、泉でも俊敏な動きを見せた。彼を魔法で撃退した時も大魔法を連発するほどだから結構強いドラゴンだ。


「では、僕の移動を手伝ってもらおうか? ドラゴンの翼なら王都まであっという間だろう。それに秘書も1人欲しいと考えてた」

「お前に従えてる訳じゃない! 勘違いするな! 俺はメルに!」

「主に銘じられればなんでもするんだろ?」


 その言葉を聞いて、アーリィは反論できず口をパクパクとさせた。


「メル? いいか? アーリィを僕の秘書兼送迎役にしたい」


 彼は騎士団副団長で、後輩を育てるのに長けている。一任しても問題は無いだろう。私は頷くとアーリィに向けて言った。


「これは主からの命令です。ルイスの言う事はしっかり聞く様に!」


「なぁーーーっ゛!!  わ、わかった! 俺は誇り高きドラゴンだ。主の命令ならばやってやるよ!! でも、メルと離れて過ごすだなんて! せめて、任務ごとに褒美としてだな、魔力を。主としてこんな体にした責任をとって補充させてくれ」


 なんか、すごく人聞きが悪い。不可抗力なのに。


「魔力の補充って? なにか魔法をかければいいの?」

「それは直接しゃぶ……」

「メルはダメ―っ!」


 そう言ってムーナがアーリィの顔目掛けて飛びついた。尻尾で器用に果実を持っている。


「なぁぁぁ! 毛玉、邪魔するな」

「これでがまん!」 


 そう言って彼の手に果実を載せた。アーリィはその果実から目を離さず、じっと見ていた。そして口の端に光る物が……食いしん坊だな。


「わらわの分あげるから! メルが祈った果物、メルの魔力が籠っておいしい!」


 アーリィは困惑しながら果実と私の顔を見比べる。


「そんなにこの果物が好きなんだね? いいよ、ご褒美に果物あげるからルイスの秘書兼送迎を頑張って?」


「うぅ……ああああああ……わ、わかった……」


 この場が丸く収まって良かった。私達は新たな仲間としてアーリィを迎える事になった。ルイスとフローが不敵な笑みを浮かべていたのを視界の端で見ていたが、気にしないことにした。

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