第30話 聖女はドラゴンを手懐けたい。
森の泉で、自称・私に倒されたドラゴン(人型)が現れた!
そして今、私は彼に押倒され『八つ裂きにしてやる』宣言を受ける。
八つ裂きの言葉と、バッキバキな彼の目を見て、私の額には冷や汗が浮かぶ。あの時、もっと丁重にドラゴンを追い返せば良かった。後悔したその時だった!
「があっ!!!」
くぐもった彼の声と共に、私を押さえつける質量が消えた。
「メ゛エ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛!!!!」
私は飛び起きた。後方を見ると、吹っ飛んで仰向けに倒れるドラゴン君がいた。更に、彼の前で地面を蹴り、頭を振り上げ威嚇するコクヨウが!
「コクヨウ! ありが……」
視界の端を、白い影がドラゴン君目掛けて飛んで行った。フローティアだ!
「……このっ! 不届き物!!!」
彼女は城で見た、白い甲冑を身に付け姿に変っている。手には剣を持っていて彼の首目掛けて振りかざしていた。ドラゴン君には八つ裂き宣言されたけど、さすがに殺すのは目覚めが悪い。それに、ドラゴンが人間の姿になるのも気になる……
「フロー! ストップ!! 彼、伸びてるから!! ストーップ!!」
私の声に反応して、剣先が彼の喉元でぴたりと止まった。
「メル! 大丈夫か!?」
「メル~!! 痛いのない?」
ルイスとムーナもやって来た。
「うん、大丈夫。みんな、助けてくれてありがとう。どうしてここが?」
「コクヨウです。森から逃げてきた動物たちから聞いたようで」
「コクヨウの言葉、わらわ伝えた~。メル、怖かった? これあげる~」
心配したムーナは手に持っていたリンゴを私にくれた。先日収穫した物だ。とりあえず、八つ裂きにならずに済んで、胸をなで下ろす。フローはまたいつもの白いワンピース姿に戻った。
「なんだ? あいつは……」
「彼は、私が追い払ったダークドラゴン……らしい」
「「ドラゴン??」」
ルイスとフローが同時に驚く。
頭突きを食らったドラゴンから、か細くうめき声が聞こえる。無事なようだ!
彼はゆっくりと体を起こし、こちらを睨んだ。私達も彼を警戒して身構えるが……
「痛ってぇ……はっ! この匂い……」
ドラゴンは私の手元を凝視している。確か、お腹が減っていると聞いたなぁ。私がリンゴを動かすと、彼の視線もついて来る。
殺気を忘れてますよ? ドラゴン君。
「た、食べる?」
「――はっ! そんなモノ! いら……なくはないけど……お前から与えられる食べ物なんか……絶対に……食べる……ものか……」
わぁ。理性と本能の間でせめぎあっている。そんな空腹で困っているのを見ちゃうとねぇ……
「ムーナ。せっかく私にくれたけど……彼、お腹減ってるからあげてもいい?」
「うん!」
「フロー、ルイス。私、彼に果実を上げようと思う。コクヨウの攻撃でダメージ受けてるから彼も素早くは動けない。なにか変な動きしそうなら、すぐ逃げるからいいかな?」
真剣な眼差しで打診した。
「ドラゴンをテイムするつもりか?」
「うん。ドラゴンは食べ物を与えた相手を主人と見なすから、今がチャンスだと思う。少なくともお腹が満たされれば、少しは落ち着くよ」
「わかりました。何かあった時は切り捨てます」
「う、うん」
それが無い事を祈りたい!
「さぁ……いいよ。私と契約しよう」
「おまえ! 正気か!? 来るな! 」
果実に釘付けのドラゴンは、理性とは裏腹にジワリとこちらに這い依ってくる。心なしか口の端から涎がつうっと垂れる。私もドラゴンに近づく。
「……くぅ!……うぅ……お前なんか! あああああああ!」
本能に負けたドラゴンは、私の手からリンゴを奪い取った。それを極上の食べ物の様に、無我夢中で食べている。
私は後ずさりしながらフローたちの元へ戻った。
「メル、私もリンゴが食べたくなったので、屋敷に戻ったら供えてください」
「う、うん分かった」
「これでテイムは完了したのか?」
「たぶん。人間が与えた食べのもを食べたと言う事は、ドラゴンにとって屈服意味するからね。これで私の言う事聞いて……」
ルイスと話していたのに体が浮き景色が変わる。さっきまで隣に居たフローとルイスが私の前方に居るのだ。正確には、私が彼らの後ろに下がり続けている。
「「メル!!」」
二人から離れた所にふわりと着地すると、体勢が変わる。
誰かの腕にの中で横抱きの状態にされていた。きょろきょろしていたら金色の瞳と目が合う。あのドラゴン君だ。しかし、殺気は全くと言っていいほど感じない。テイム、成功した!?
「お前、旨いな?」
…………。
私、とんでない過ちを犯してしまったのかもしれない。




