第29話 あの日、出会った……
「う~寒い! 冷えて来たな~」
私はひとり、最近日課としている泉の巡回に行った。水が枯渇しない様に毎朝祈りを捧げているのだ。
ちなみに私が祈って水量が増えた影響で、どこかの水源が枯れているのでは? と心配になりルイスに調べて貰った。結果、近くにある氾濫が多くて困っていた川の水が減ったらしい。バランスが取れていて良かった。これで思う存分祈れる。
そう言えば、この前私に攻撃したのは誰だったのだろう?
フローと喧嘩したり、果樹園でバタバタしていたので、すっかり忘れていた。未だにその人物は特定できていない。
ベルメールかと思えば、彼は離れた土地で目撃証言が出ている。ベルメール以外の誰かから、知らないうちに怒りを買ってしまっているのだろうか?
行動に気を付けないと!
考えているうちに泉に到着した。今日も泉の周りには、動物と魔物が水を求めてやって来る。森の住民たちは、めっきり大人しくなった。私の言う事が分かるのか、話しかけると従ってくれる事も多い。賢くて素直な子が多くて助かる。
しかし、今日はいつもと様子が違った。泉のほとりで動物たちが何かを囲む様に群がっている。不思議に思い、その輪に入って確認すると……人型の何かが倒れていた。
紫色の短い髪に褐色の肌。この季節には心許ないボロボロのローブだけを羽織っている。私と同じ年頃の男性だが……尖った耳に黒いトカゲのような尻尾。人間とは違う特徴を持っている。顔色が悪くうめき声をあげている。
「君、大丈夫!?」
傍に座り込み肩をトントン叩いた。すると彼は目を薄らと開け、黄金の綺麗な瞳と目が合う。
「うぅ……ハラ……減った……!!」
次の瞬間、場の空気が変わる。周りを囲んでいた動物たちが、一斉に森の中へと逃げて行った。動物たちの行動に驚いていたら、右腕を強い力で掴まれた。
「……この匂い、お前!! お前の所為でこんな目に!」
(へぇぇぇぇぇ!? 何事!?)
明らかに敵意を向けている。私は驚いて目を白黒させていると、彼は体を起こした。腕は離してくれない。さっきまであんなにヘロヘロだったのに!!
「待って! 何のこと? 私達どこかで会ってるの? 私が何したの??」
「はぁ!? 当たり前だ! お前、大魔法を乱発する聖女だろ!? 」
聖女……私の正体を知っている者がとうとう現れてしまった。彼は城の関係者? 誰??
彼の特徴的な尻尾と耳は、記憶に残り易いだろう。記憶の中から必死に彼を探すけど……出てこない。今日が初対面だ。
彼は私に恨み言を言い始めた。
「あれから俺は仲間に馬鹿にされてテリトリーから追放されるわ! 変な術師に絡まれてテイムされそうになるわ! 挙句の果てにこの泉の水を飲んだらこんな姿に成るわ、この泉もお前の罠か!?――ああああ! 全部お前の所為だ!!」
畳み掛けるように言われて、私は困惑する。本当に何の事? 途中、私の所為じゃない災難も有ると思うなぁ。
「あの……人違いじゃ……」
まだ思い出せない私に苛立ちを覚えた彼は、腕を引っ張り顔をぐいっと近づけて睨んで来た。
「白々しい!! やっぱり! 間違いない!! 俺はお前に撃たれたドラゴンだ!」
(撃たれたドラゴン……ドラゴン……ドラゴン……ああ!)
以前ダークドラゴンを撃退したことがある。うっかり最前線に行ってルイスに怒られたあの件だ。通りでドラゴンの様な立派な尻尾をお持ちで!
「あの時の! ん? 待って? 泉の水を飲んで人型になるの??……って! わぁっ!!」
「この恨み、しっかり返してやんよ。さぞ聖女様の体に宿る魔力は旨いんだろな! 八つ裂きにして喰ってやる!!!!!」
両手を封じられ押し倒された。抵抗するが、びくともしない。
やばい。彼の目はバッキバキだ。これは……本気だ。




