表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んだ聖女は天使と遊ぶ ~犯人を捜したいのに、スローライフを強いられます!~  作者: 雪村灯里
第一章 聖女暗殺

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/76

第2話 聖女の秘密の夜遊び

「フロー。魔法をかけるよ?」


 みんな寝静まった深夜、聖女の塔にある自室。私とフローティアは入れ替わる準備をする。この事は、二人だけの秘密。


「ええ、よろしくお願いします。眉毛と睫毛まつげも忘れないでくださいよ?」


 前回はうっかり眉毛の色を変えそびれて『変身する気有るんですか? 意外に目立つんですよ!?』とフローに怒られた。


(はいはい。今回は忘れません♪)


 私は、呼吸を整えて精神を集中させる。

 聖女の白いネグリジェを着て、長い髪を下ろしたフローティアに手をかざした。


「風の精とたわむれて揺れしもの。我が望む色に変れ」


 空気がざわめき、翳したてのひらの前に光の魔法陣が現れる。そこからフワッと風が吹いた。


 その風がフローティアの髪をふわりとなびかせて通り過ぎてゆくと、彼女の髪色が薄桃色に変る。


(うん! 完璧ですっ!! ちゃんと眉毛と睫毛も染まってます!)


 フローはドレッサーの鏡で魔法のかかり具合を確認している。彼女が瞬きする度に涼しげな目元に星が舞った。


 私もその間に、自身に同じ魔法をかけて、髪色を水色へと変えた。そして、後ろで高く結って整える。

 白いブラウスと濃紺のスカートの上に、闇に溶けそうな黒いローブを羽織った。ノートや本が入った革のカバンを斜め掛けにして準備は……


「……待ってください。メル、『ほくろ』描きますよ? あと、魔除けの首飾りとバングルも外してください」


(おっと! 重要なパーツを忘れていた)


 フローは私に近づくと、ドレッサーの上に置かれた細い筆を取り、ちょんと私の左目尻に泣きぼくろを描いた。そして、普段私が身に付けている首飾りとバングルを彼女に渡す。


 これで私は、偽フローティアになった! よりクオリティーを上げるならば、冷ややかな表情と丁寧ではっきりした物言いをすれば完璧だ。


 対する本物のフローティアも、コンシーラーで自身のほくろを塗り隠す。そして、先程の首飾りとバングルを身に付けた。偽メルティアーナの完成だ!


  しかし彼女は、鏡を見て隠したほくろを気にしていた。


「フローどうしたの? ホクロ、しっかり隠れてるよ?」

「ええ……寝ている間に、擦れて落ちたら嫌だなと思いまして」


(ああ! なるほどね!!)


 私は両手を組んで、目を瞑り祈った。聖女の力を少しばかり使う。


「フローのお化粧が、落ちにくくなります様に」


 私を中心に空気がほのかに光った。同時にフローの目元もフワッと光る。


 聖女の力の1つである『祈り』を使ったのだ。 それは祈った対象に力を付与する能力。


 ポーションに『効力よ上がれ』と祈り、それを飲めば傷の治りが格段に上がり、剣に『攻撃力よ上がれ』と祈れば岩をも砕く剣になる。


「まぁ~た聖女の力を無駄遣いして……でも、ありがとうございます」


 彼女は、優しく微笑みながら礼を述べた。彼女のまとう凛とした空気も相まって、本物より聖女らしい。……私だって『黙っていれば、聖女らしい』ってよく言われますけどね。


「じゃあ、約束通り、お菓子とお茶を頼みましたよ?」

「うん、任せて! フローも誰か来ても無視して大丈夫だから。私、一度眠ったら起きないし」


 私は自身で言いながら情けなくなって「ハハハ……」と笑った。フローも呆れたように、ため息を吐いている。


「それは私が嫌という程、知っています。くれぐれも気を付けて」


 真剣な顔で、フローは私を見送る。彼女も心配性だなぁ……私はこの国の聖女に選ばれただけあって、そこら辺の魔法使いより強いのに。


 でも、不安げな彼女に笑顔で答えた。


「うん、任せて! この前ドラゴンを追い払った聖女だよ? フロー、いつも気にかけてくれてありがとう! じゃぁ行ってきます」


 私は壁に立てかけてあった、身の丈程の杖を手に取ると、窓から飛び降りた。飛行魔法を発動して、杖に座り新月の星空を流星の様に飛んでいく。


 窓辺で心配そうにこちらを見るフローに向かって、大きく手を振った。


 これが、生きているフローとの最後の会話だった。今思えば、彼女が何に対して心配していたのか、もう少し知っておくべきだった。


 あんなモノが王宮内で蠢いているなんて……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ