表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んだ聖女は天使と遊ぶ ~犯人を捜したいのに、スローライフを強いられます!~  作者: 雪村灯里
第二章 魔界de強制スローライフ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/76

第27話 聖女の果樹園

「う~ん! 涼しくなってきたね~」


 私は、気持ちの良い秋の空気をいっぱい吸って、伸びをした。

洗濯物も気持ちよさそうにはためいている。


「メッ゛」

「コクヨウも気持ち良いそうです」

「わらわ、ちょっとさむ~い」


 ちなみに、ルイスは朝早く王都に向かい、騎士団の仕事をしている。私達と一緒に屋敷の片づけをしながら、副団長の仕事など……彼には頭が上がらない。倒れないか心配だ。

 ここに来て約2週間。屋敷の中は何とか片づいて来たけど……庭や畑はまだまだ荒れていた。


「メ゛ッ!」

「そうだよね? 畑はコクヨウが今綺麗に草を食べてくれているものね?」


 畑以外はまだまだ荒れている。冬が到来する前に整備を進めようという事で……


「メル、今日は敷地の整備とは言ってましたが……どこをいじくるのですか?」

「うん、ルイスから借りた開拓日誌の中に『果樹園を作った』って記述があったんだ。ルイスに聞いたら『確かそんなのもあった』って言ってたし」


気だるさを、冷静な仮面で隠していたフローの空気が変わった。


「果樹と言う事は!! ……甘いのですか?」

「甘いよ。放置されてたから果実はなってないかもしれないけど……って」


 フローは目を輝かせていた。彼女は甘味と田舎暮らし・開拓に関する事象には思いっきり感情が溢れてしまう。


「素敵です、整備しましょう。一刻も早く!!」


 私達は、フローに急かされながら果樹園に向けて歩き出す。敷地の西の端に柵で仕切られたスペースがあった。雑草が生い茂る中に果樹らしきものが数本植えられている。


「ここだね」

「わ~! 草がぼうぼうなの~」


 半野生下で過ごした果樹は、葉に艶が無く元気がない。上手く育てていれば、大きな果物を収穫できていたのであろうが……不揃いな果実を、遠慮がちにちょこんと結実させていた。

 

「リンゴだ」

「まぁ……ちいさい……」

「メェ~……」


 現実を見たフローの声が、トーンダウンしている。


本来ならば、収穫のシーズンだ。剪定の時期も今ではない。肥料も無いから追肥もできない。除草が今日できる最大限。


「今年はダメだったけど、来年の為に今から出来る事をしないとね。コクヨウ、今日はこの敷地内の雑草をよろしくね」

「メ゛エ゛ッ゛」


 コクヨウは雑草を黙々と食べ始め、私も木に巻きついた雑草を取り除いた。フローは図鑑や開拓資料を読んで林檎の育て方を確認している。


「あれ? ムーナは??」

「ムゥは虫を追いかけて行ってしまいました。まぁ、大丈夫でしょう」


 今回は力仕事が多いから、小さなムーナにはお願い出来る事がない。庭で遊んでるなら、大丈夫かな?


 二時間ぐらい作業をして果樹園はすっきりした。腰が痛い。


「素晴らしいです。綺麗になりました」

「メ゛ッ゛」

「疲れたよぅ。でも達成感がすごいよぅ。……来年は大きな実を結実するといいなぁ」


 私は心の底からそう思った。そして、ふと好奇心が湧いてしまう。泉にな願ったら水量が増えたけど、この果樹に祈ったらどうなるのだろう?


 私は果樹の前で、聖女の祈りを捧げた。


(果樹たちが、健やかに育ちますように)


 それぞれの木に祈りを捧げ終えた後だろうか……明るい声が聞こえてきた。


「メル~! フロー~ただいまぁ~」


 ムーナが戻ってきた! 振り向くと彼女の頭上の空間には、グニャグニャと大きな水の塊が浮いている。まさか、この水は……嫌な予感がする。


「水をあげるの~」


 そう言って彼女は果樹園に雨を降らせるかの如く水を撒いたのだ。もちろん私もコクヨウも、その場を離れることなく果樹たちと一緒に水を浴びた。


「「…………」」


 水の影響を受けないフローが冷静にムゥーナをねぎらう。


「ムゥご苦労様。どこの水を持ってきたのです?」

「泉の水を持ってきた~! おいしい~」


 きゃっきゃと楽しそうに話す二人を見つめる、一人と一匹。私は二人に向かって挙手した。


「はい……ずぶ濡れになっちゃったから……着替えて来てもいい?」

「メエェェェ……」


 私の隣でコクヨウも、意見がありそうな声で啼いていた。しかし彼は、次の瞬間水を払うために体を思いっきり震わせた。もちろん、その水滴を私は浴びる。


ちべたい(つめたい)


「あらまぁ。どちらにしてもひと段落つきましたし、今日の作業は終わりにしましょう」


 ◆ ◇ ◆


「――と言う事が昨日あったんだよ」


 翌日、ルイスと敷地を見回りながら、作業の進捗を報告した。私達の近くでムーナはぴょこぴょこと走りまわっている。ちなみにコクヨウとフローは畑で戯れている。


「ここの果樹園は趣味で作られたモノだから、僕も小さい時に一度食べたきりだ。期待しない方がいいぞ?」

「えっ! それをフローが聞いたら、がっかりしちゃう!」


 果樹園の近くに来ると、何かに気付いたムーナが嬉しそうに駆け出した。果樹園へ一直線に走って行く。


「果樹園にムーナが喜びそうな物でもあったのか?」

「無かったと思うけど……なんだろう? 」


 不思議な顔をしながら果樹園に入ると……その顔は驚きに変った。


 まず、果樹園の雰囲気というか空気が違った。爽やかで甘い香りも漂ってくる。そして木々の葉にも艶が戻り、昨日より一回り大きいような……


「僕の記憶だと……この果樹園、残念な感じだったのだが……」

「うん、昨日もそうだったよ……」

「何か肥料でもやったのか?」

「ううん。私が祈りを捧げて、ムーナが泉の水を果樹にあげただけだよ」

「まさか、聖女が祈った水と祈りで、樹木が元気になったのか?……」


(ははは……効果でちゃった?……)


 まさか、生き物にも祈りの効果が付与されるなんて。今まで物に対して祈ることが多かった。なので、こんな効果が有るとは思ってもみなかった!


「この反動で枯れたりしないよね? 私、怖くなってきた……」

「それは……僕も分からないからな……」


「メル~! りんごがなってるの~!! フローにあげるの~」


 ムーナは、木に実っている大きな赤い果実を指差した。


(ええッ! 結実してるの??)


 この事態に引き気味の私とルイスは互いに顔を見合わせる。


「聖女の力って……良く分からないな……」

「うん。ほんと……飽きないよ」


 こうして、小さな果樹園は運用が始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ