第22話 魔境の森の仲間達
「メル？ 本っっっ当に、大丈夫ですか？？」
今朝の騒動は大変だった……ルイスもフローもムーナを追い払おうと、屋敷の中で追いかけっこが始まってしまった。
ムーナは楽しそうに二人を翻弄し、私は二人を止めるのに一苦労。朝から疲れちゃった……。
落ち着きを取り戻した二人に、腕本体は食べられていない事と、私は全然痛くなかった事を丁寧に……それもう！ 丁寧に説明した。やっと今日の仕事へ移る。
水を汲みに井戸へ向かうと、釣瓶が設置されていた。今朝ルイスが準備してくれたようだ。これで水を汲むのが格段に楽になる！ 井戸は豊かな水を湛えていた。
ふと、気になった。森の泉はどうなったのだろう？
ルイスは部屋で書類を読んでいて気付いていない……フローは珍しく別行動だ。近くに居るのはムーナだけ。と言う事は……
「ムーナ、昨日の泉に行ってみようか？ 泉に変化が有ったか、見たいんだ」
「むぅ！ 泉みる～！ わらわもいくぅ～！」
ムーナの一人称が変わった！？ 妾！？ 心なしか、昨日より言葉が流暢だ。魔物って学習能力が高いのかも……
――と、言う事で。泉に行ってきます！
◇ ◇ ◇
念のため、杖を持ってきた。現在進行形で仕事をサボっているので、サッと行ってサッと帰ってこよう。
森の中は、昨日より明るさを感じた。魔物の数は昨日より格段に減っていた。
もちろん油断していると、魔物が飛びかかって来るの！ 私は時々杖をブンブンと振り回し、威嚇しながら歩みを進める。私は君たちより強いよ～たぶん。
「魔物、少なくなったね～」
独り言のつもりで言葉を零したら、ムーナが答えてくれた。
「清められたから、弱いの逃げた～」
昨日、泉の周りを清浄した効果が出たのか。でも弱いのが減ったって事は強いのは残って居るよね？ それに……
「ムーナは平気なの？」
「わらわ、強～い！」
きゃっきゃと自信満々に答えた。……かわいいぃ。
何事も無く泉にたどり着いてしまった。私は物陰からその光景を見て驚く事になる。
昨日より、水量が多くなっていた。水たまりから泉と呼ぶにふさわしい姿に。そして、泉の水を飲みに、草食の野生動物まで来ている。
「雰囲気かなり変わっちゃったね？ 水が枯れなさそうで良かった」
「水が戻って来たから、昔から居たの戻ってきた～」
なるほど！ 動物たちも水が少なくて困ってたのか。さて、確認もできたし、屋敷に帰ろう。
帰ろうと後ろを振り返ると、ヤギに似た魔物が一匹、私の後ろに居たのだ。蒼黒い毛皮を持ち、知っているヤギより体が一回り大きい。
いつの間に！ 全然気が付かなかった！ 威力は弱くても魔法で撃退しないと！！
そう考えた時だった。
「は～い！！」
ムーナが草を一本、私に手渡してきた。思わず受け取ってしまったが……
「ムーナ！ 危ないから隠れてて！！」
その時だった、魔物が首を伸ばして、その草のにおいをかぎ始めた。
――スンスンスン
物欲しそうに私の顔を覗いてきた。
「この草が欲しいの？？」
私は差し出すと、魔ヤギはもしゃもしゃと草を食べ始めた。
ムーナは楽しそうに草を集めて来ては、私に渡す。その度に魔ヤギは草を食んだのだ。
「メ゛ェ゛ェ゛……」
食べて満足したのか、魔ヤギはひと鳴きする。嬉しそうに、頭を私にこすり付けてきた。私も応えるように、魔ヤギの頭を撫でる。
立派な黒い角に、堅い毛並み。蒼い目はよく見たら優しい光を宿していた。
「満足したようで何よりです……ムーナ、今のうちに帰ろう？」
「むぅ！ 帰る～！！」
私達は小走りで屋敷へと逃げ帰った。
戦闘にならなくて良かった～……これもムーナのお陰だ
◇ ◇ ◇
小道を駆け抜けて、屋敷と野生に還りつつある畑が見えた。私は安心して立ち止まり呼吸を整えていると、後ろから黒い影がヌルッと私を追い越して行った。
（――え？ 今の何？）
驚いて顔を上げると、先ほどの魔ヤギが畑に生えている雑草を一心不乱に食べ始めたのだ。
「メル！ どこに行っていたんですか！」
ルイスの声が聞こえてくる。そして草を食む魔ヤギに向かって話しかけていた。草が生い茂り過ぎて、私が畑に居ると思っているのだ。
ルイスが畑に近づいて行き……そして魔ヤギと目が合う。
「畑で何をして…………」
「…………メ゛ッ゛！」
魔ヤギはお腹がいっぱいになったのか、ぺたんと地面に座り込んで眠り始めた。困惑するルイスは周囲を見渡して、今度こそ私を見つけた。
説明を求める表情をしながら、ゆっくりとこちらに来る。
「ごめん、ついてきちゃった☆ たぶん、無害なハズ……」
この魔ヤギ、実はかなり今回の生活で活躍してくれる子だ。
そんな魔ヤギと出会った朝だった。
