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死んだ聖女は天使と遊ぶ ~犯人を捜したいのに、スローライフを強いられます!~  作者: 雪村灯里
第二章 魔界de強制スローライフ

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第18話 騎士様と元聖女と幽霊(仮)の共同生活

 ルイスの家が所有する、辺境領地の別邸で新生活することになった。驚くべきことが3つある。


 1つは、とてつもなくボロいお屋敷だった。

 2つは、そこにルイス君と一緒に住む事。

 3つは、ルイス君が私の正体を知っていて、フローも見える事。


 ――バタンッ!!


 私達は階段を駆け上がり、あてがわれた部屋へと逃げ込んだ。その部屋にはベッドが二つあり、小さなクローゼットと机が置いてある。


 久々の住人に喜ぶように、部屋には埃が舞い上がる。私は埃に咽ながら、窓と雨戸を開けた。

 新鮮な空気を吸って、気を落ち着けようとする。でも、一人では冷静になれない。


「フロー!! どうしようっ!! ルイス君が気づいていた!!」


 一体、彼はいつから気づいていたのだろう!?  フローは怒りながらブツブツとつぶやき、考えを整理している。


「フ、フロー……大丈夫?」


 彼女は大きなため息を吐いた後、覚悟したかのように顔を上げた。


「……悩んでも仕方ないですね。彼の事は様子を見ましょう。とりあえず魔法を解いて、仕事着に着替えましょう。部屋が散らかっていると考えも纏まりません」


「そうだね、こんな状態じゃ眠れないもんね?」


 埃だらけの室内を見渡して、ため息を吐いた。半日で綺麗に出来るだけ綺麗にしないと。


 彼が、私達をどうするつもりなのか、理由が分からず不気味だ。だけど、何かするつもりなら、わざわざ私の正体を暴かないで油断させた方がいい。……フローが言う通り、ルイス君の事は様子見だ。


 私は数日振りに髪色を薄桃色に戻した。髪を結い、作業用のワンピースに着替え、エプロンを身に付ける。


「よし! 頑張るぞ! 沢山動いてよく眠る!!」

「そうです。それでこそメルです。頑張ってください」


 私はハッとして、フローを見る。

 表情から思考を読んだ彼女は、さらっと答えた。


「私は物に触れないので、応援担当です」


 ◇ ◇ ◇


 一階のへ行くと、ルイスも汚れが目立たない服に着替えて、掃除道具を出していた。彼は私を見ると少し驚いて、いつものしかめっ面に戻る。


「水を汲みに行きましょう。家の井戸が枯れているので、少し離れた所にある泉に行きます」

「まぁ! 井戸が枯れてるんですか!?」


 私の後ろに隠れるように立っていたフローが、ひょっこりと顔を出す。


「ええ。しかし、これから行く泉も無事なのか怪しいくらいです」


 それを聞いてフローは唖然とする。

 確かに水も無ければ生きていくのが大変だ。私達はルイスの後を歩きながら尋ねる。


「このお屋敷って、どれくらい人が住んでいないのですか?」

「1年くらいですね。本来なら祖母が住まう予定だったのですが……。可愛い弟子が出来たから先にのばすと」

「それってもしや……」


 私が、ドロシーの元に通い始めたのも同じ時期だ。


「貴女の事です。1年もよく隠れて通いましたね」

「えっ……それほどでも……」

「褒めていません。まったく貴女あなたは危なっかしいのだから……」


(ぴぃ! こわい!!)


「メル、怒られちゃいましたね?」


 彼とうまくやって行けるかな? 不安になってきた。


 ◇ ◇ ◇



 私達は泉と呼ばれる……呼ぶには心許ない水たまりの近くに来た。


 かろうじて水は湧いているが、水量が少ない。周囲の森の中からは、魔物や野生動物の鳴き声が聞こえてくる。


『ギャーァァァァ!!』


 森の中から複数の魔物が飛び出してきた! だけど、ルイス君は慣れた手つきで追い払う!!


(―――わぁ……)


 この森は魔物飛び出し注意だぁ……。まだ小型だから良いけど、噂によると大型のモノもいるらしい。


 森の奥からは、私達を観察する複数の視線を感じる。だが、先ほどのルイス君の強さを見て、襲うのを躊躇ためらっていた。弱肉強食~。


「まぁ~た、ずいぶん禍々しい場所ですね……泉にしては心許こころもとない」


「ええ、魔界の扉が出現してから、年々とこの泉の水量が減っているんです。それに併せて屋敷の井戸の水量も減っています。いずれは枯れてしまうのかもしれません」


(水が枯れたら、困るなぁ……枯れて欲しくない!)


 私は泉の前に膝をつくと、胸の前で両手を組んで祈った。


(どうか、この泉が枯れる事無く、に滾々《こんこん》と水を湛えますように。住人たちの喉を潤してください。この森も瘴気が薄れ、清浄でありますように……)


 集中して祈ると周囲が一瞬光った。泉から答えるように一瞬こぽっと水が湧いた。森の奥から爽やかな風が吹く。ルイス君は感心して言葉を零した。


「聖女の力は、まだ使えるのですね?」


 よかった、聖女の力はまだ使えたみたい。聖女の力も失っていたら、どうしようと思っていた。

 

「うん、この力は魔力と回路が違うイメージがあって……ってごめんなさい!!」


 聖女時代の名残で、砕けた言葉遣いになってしまった。当時もこれで怒られた事がある気がする。私は怒られると思い身を縮めたが……


「言葉遣いは、僕の前なら今まで通りで結構ですよ」


「……はい?」


 私は疑う様に、彼を見てしまった。彼も、聖女としての振る舞いには厳しいはずなのに……私と同じく、フローも彼の反応に驚いていた。


「あらまぁ。騎士団の堅物が……何かとんでもない事でも起きるのですかね? それにしても、メルの祈りでも、目に見える効果は無さそうですね……」


 フローの言う通りだ。泉の水量は変わらない。もっと違う効果を付けておいた方が良かったかな? 飲んだら体力が回復するとか。でも、それはまた今度にしよう……。


 私達は桶に水を汲み、屋敷へ帰ろうとした時だった。


 ――ガサガサッ!!


 茂みの中から音がして……放物線を描きながら、私めがけて何かが飛んできた。

 

(しまった! ここ! 魔物飛び出し注意だった!!!)

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