第15話 聖女様は撃ち堕したい
屍術師・ベルメールが逃走した。彼を乗せた魔物からは翼が生え、空へと飛び立つ。
王宮魔術師たちも逃げ行く彼に向けて、魔法を撃つ。だが、攻撃が当たらず苦戦していた。
私は空を睨むと、彼等の後方で距離を取り、祈るように手を組んだ。そして、素早く印を結んで、宙に魔法陣を描く。
(あいつを撃ち墜とす!!)
私の隣にはフローティアが、佇んでいた。彼女は冷静に私に言った。
「メル? 遠すぎます。それに……」
「やだ。仇だよ!! 全力で撃つ!! 絶対に捕まえる!!」
私は言いながら、弓を構えるモーションを取った。狙いを定めて光の矢を放とうとしたその時……先程倒したはずの魔物が起き上がり、私に襲い掛かってきた。
私はバランスを崩し、倒れる。矢は明後日の方向に飛んでゆき、魔力の流れが乱れ……
――パキッ。
右腕の一部が赤色の結晶に覆われてしまった。
(うそ……)
命の危機を察知した私の体は、目から入ってくる景色をコマ送りにして『解決策を見つけろ』と急かす。
ゆっくりと動く世界で、私は絶望した。近づいてくる魔物……これは対応しきれないよ……右腕も痺れてうまく魔力が練れない……。
絶望した世界でフローが『やれやれ』と呆れ顔で言う。
「まだ、魔物が倒れてないって言おうとしたのに……油断大敵ですよ? メル」
(ごめん……いつも私は、そうだったね)
ルイスも私を助けようと、剣を手に取り駆け寄って来るが……間に合いそうにない。
(ルイス君、ごめん。叱ってくれたのに……私、反省を生かせなかった……)
魔物の鋭い爪が近くまで迫っていた。もう、終わる。でも、絶望の世界に心強い声が響いた。
「ただ。……メルに手を出すのは、何人たりとも許しません!」
フローが魔物に向かい強く言い放つと、彼女の頭上で光る輪が、更に輝きだした。
小さかった翼は大きくなり、手に白銀色の剣が現われる。白い甲冑を身に付けフローが魔物に向かい剣を突き立てた。
何が起きたの?
私が地面に倒れ込むと同時に、剣を受けた魔物は苦しみだした。黒い液体の様にどろりと溶けると、地面に吸い込まれて消えて行った。
駆けつけたルイスは、いきなり消えた魔物に驚きながらも、私を護るように抱きしめる。
「大丈夫ですか!?」
彼に触れられて、ゆっくりと動いていた時間の流れが通常へと戻った。
空を見上げると、ベルメールの姿は無かった。
「ごめんなさい……アイツ逃がしちゃった……」
ルイスは抱きしめた私の頭を優しく撫でた。
「君は悪くない。あれを命中させるなんて芸当は、聖女様にしかできない。無事で良かった……」
(その聖女が私なんだよぉ……)
フローも私に近づき頭を優しく撫でた。
「私は、メルが無事ならそれでいいのです」
彼女のやさしい手の感触を、今では感じられないのが余計悔しかった。
悔しくて悔しくて……涙が止まらなかった。




