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死んだ聖女は天使と遊ぶ ~犯人を捜したいのに、スローライフを強いられます!~  作者: 雪村灯里
第一章 聖女暗殺

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第14話 容疑者は聖女様?

 屍術師ネクロマンサーを捕まえようとしたら……突如、探偵謎解きショーが始まった。しかも、聖女を殺した犯人は私だと。みんなの視線が一斉に私に集まる。


(……へぇっ!?)


 呆れが7割、驚きが3割の私は絶句して硬直する。視界の端で殺された本人であるフローティア(幽霊?)も呆れてため息を吐いた。


「はぁ~。馬鹿らしいです。早くあの屍術師ベルメールを捕まえればいいのに」


(ごもっともです。私もそう思いますっ!!)


 ベルメールは、そんな私の様子を見て、得意げに推理を披露した。


「ふふっ! アナタ、昨晩は自室に居なかったみたいじゃないですか? そして姿を現したのは朝。無実を証明する人が居ませんねぇ~?」


 みんなの視線が少し冷たい。同僚のリズは目を真ん丸として驚かせ、アリサは泣きそうな顔をして首を横に振っている。


 あっ……そう言えば、私。クロに近いグレーでした。でも……


「私は殺していません!」


 私は毅然とベルメールを見据えて答える。それは天に誓ってやっていない。

 大切な親友を手に掛けるなど私自身が許さない。


「ふぅ~ん? では、昨晩から今朝にかけて、どこ(・・)をしていたんですか?」


(そ、それは……そうだ! ここで私が聖女と言えば状況が変わるのでは!?)


 そう思って目を輝かせたら。フローが私の考えを読んだのか、私の顔を覗きこみながら、口の前で“×(ダメっ)”と、指をクロスさせている。


(ええっ!! 言うなって!?)


 思いもよらぬフローのリアクションで、私の挙動はさらに怪しくなる。ルイス君も少し怖い顔をして私を見ている。


(……仕方ない、昨夜から今朝にかけての行動だけ(・・)答えよう)


 私が口を開きかけた時、開いた窓から黄色い小鳥が入ってきた。パタパタと翼を羽ばたかせながら、迷わずにルイスの肩へ止まった。


 「失礼……」彼はその鳥に触れると、鳥は小さく筒状に巻かれたメモへと姿が変わる。あれは魔法による通信手段だ。彼はそのメモを手に取り、無言で読み始めた。


 ルイス君は助けてくれそうにない。私は小さく肩を落すが、気を取り直して昨日の行動を話した。


「ゴホン……私は、昨晩から今朝にかけて城の外に出ておりまし……ふがっ! ぐぅ~~~~!!!」


 ルイスが突然、私の口を手で塞いだ!!

 私は抵抗するが、彼は離してくれず……その代わりにルイスが話始めた。


「失礼……たった今、フローティア嬢のアリバイが確認できました。彼女は昨晩、日付が変わる前から、夜明け前にかけて私の祖母の店に居た模様です」


「ふぇ? 祖母??」


 私は驚いた。思わず手の力が抜ける。大人しくなった私から、ルイスは手を離してくれた。驚いているのは私だけでは無かった。マジェンダ大臣も驚いている。


「ルイスのお婆様とは、ドロシー殿の事か!?」


 マジェンダ大臣とドロシーは元・王宮魔術師団所属という共通項がある。顔見知りなのだろう。年はドロシーの方が上だが……。


 私のアリバイを聞いて、ベルメールは慌てて反論を始めた。


「それがなんですかァ! その魔女とやらが眠ってる間に抜け出して、聖女を殺して戻って来るともできるだろう!!」


 確かにそれも出来るかもしれないけど、あの夜私は読書の他に実はやっていたことが有る。ベルメールの問いにも、ルイスはメモに視線を落しながら説明する。


「祖母の話だと彼女は、常人が(・・・)一晩で書ききれない(・・・・・・)高度な魔法陣を一晩で描いています。――到底城に帰る暇は有りませんね。更には、眠らず本も読んで、日の出前にその召喚魔法!?……を失敗して、慌てて帰って行ったそうです。はぁ……これなら、貧血で倒れるのも頷けますね? むしろよく城まで戻って来れました。無茶しすぎですよ? フローティア嬢」


 それを聞いて、イェロー大臣や魔法に心得がある物が慌てだす。


「一介の侍女が、大魔法使いに師事してるだと!? しかも召喚魔法まで!?」

「彼女は魔法が得意だったのか!?」

「……いえ、むしろ苦手だった筈です」


 まずい。騒ぎに成っている。

 探偵役のベルメールもそれを聞いて目を白黒させていた。


「なんだと! 話が違うじゃないですか……!! じゃあ! 犯人はお前だ!! そこの侍女!!」


 彼はアリサを指差して怒鳴った。それににアリサは驚き、リズに抱きついた。

 じゃあって、何よ!! でも……彼のメッキが剥がれて来たぞ。


 ルイスは、ベルメールを睨みながら問いかける。


「……ベルメール殿は今回の件について、内情を知り過ぎじゃないですか?」


「ぎくうぅぅぅ!」


 この男、分かり易いなぁ……。ルイス君は詰問を続ける。


「なぜ旅人の貴方あなたが、市民よりも早く聖女様の訃報ふほうを知ることが出来たんですか? フローティア嬢の不審な行動もなぜ知っているのです? それに、聖女様が発見された時の状況も……犯人じゃないと知り得ませんよね?」


 これが決め手になったのだろう。


「この男を捕えろ!!!」


 イエロー大臣が力強く指示した。しかし、同時にベルメールも本性を現す。


「ちっ……聖女()諦めますか。でも収穫は有りました。では、私はここでおいとまします! お相手ならこの子達がしますので! みなさんごきげんよう!! はっはっは!!」


 床から黒い影がにゅるっと浮き上がり、2頭の魔物が現われる。それは巨大な狼に似ていた。


 一頭はベルメールを背に乗せて、黒く大きな前脚で床を蹴った。そして、皆を突き飛ばしながら、出口へと駆けて行く。


「待て! あいつを逃がすな!!」


 それを邪魔するように、もう一頭が通路を塞ぐが……


「凍れる槍よ!」


 クラウス導師が魔物に魔法を打ち込んだが、だが防御が堅い!!

 私はそれを見て素早く印を結び、魔法を展開した。ありったけの声で叫ぶ。


「そこを、どきなさぁぁぁいぃ!!!」


 空気を圧縮した魔法を魔物に命中させた。魔物は建物の外へと弾き出され、倒れ込む。


 この隙に、騎士達は逃げたベルメールを追いかける為に、屋外へと駆け出す。私も彼らの後を追いかけようとすると……


「こら、ダメですって!!」


 ルイスが私を止めようとするが……彼をひらりと交わした。後ろから狼狽えるルイスの声が聞こえる。ズレ落ちそうなヘッドドレスを投げ捨てて、私も走り出した。


 ベルメールは高確率でフローティアの仇だ。絶対に捕まえる!!

 

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