第13話 探偵は語り、容疑者が見つかる
「お前は、聖女様に何をしようとしたんだ?」
クラウス導師は優しい方だ。怒った姿を見たことがない。でも今の彼は、鳶色の目で鋭くベルメールを睨んでいた。
導師は大聖堂の入口から祭壇へと向かい、ゆっくりと歩みを進める。そして、自称降霊術師の疑問を解決した。
「聖女様が身に付けている護符は、呪いや魂を冒涜する術に反応して発動するようになっている。……護符は二つとも発動している様だな」
クラウス導師が私の隣を通り過ぎようとした時、彼は歩みを止めた。私の肩に優しく手を置いたので、驚いて彼の目を見る。……彼の表情には悲しみと安堵、そして決意が混ざっていた。
「フローティア、辛かったね。もう大丈夫だ、聖女様をこれ以上冒涜させないよ」
彼の静かで優しい声を聞き、私は思わず涙が出そうになった。
今フローの遺体を守る結界は、もちろん護符のものでは無い。護符を造った本人ならそれも見分けられるだろう。
彼は気付いたのだ……私が本物の聖女だと。そして、代わりに犠牲になったのがフローティアだと。
クラウス導師は再び歩きだした。三大臣の近くにたどり着くと、彼らに進言する。
「御三方、この男は屍術師です。この術は死者の遺体と魂を操り冒涜する。聖女様を冒涜するのを辞めて頂きたい」
「「屍術師……」」
そう聞いてマジェンダ大臣とイェロー大臣の表情が険しくなる。
二人と近くに居た騎士はベルメールに向けて剣や杖を構えた。それを見て彼は慌てだす。
「そんな、待ってください!! 僕はただのシャーマンで……」
クラウス導師はベルメールに問いかけた。静かに低く。その声からは怒りがにじみ出ている。
「では、なぜ自身の体に降霊できない? 本来口寄せの術は、術者本人に霊を降ろすものだ」
「うっ……。そ、それはですね……」
「この結界はすぐには消失しないぞ。なにか企んでいるのなら、諦めるのだな」
場の空気が一気に張りつめる。
彼を捕らえようと近くの騎士が、じわりじわりと近づくが……
「はっはっは……。いやァ~誤解です! 悪いものを呼び寄せてしまったようですね? 失敬失敬!」
『失敬!』で済む話じゃない。
騎士達はジリジリと彼との距離を縮める。
「聖女様を見て考え事をしていたら……気が変わりまして。この事件、聖女様をお呼びする程ではないとね! 僕、分かってしまいました。彼女を殺した犯人がッ!!」
(……は?)
皆、理解が追い付かずにざわめき出す。だが騎士達の警戒は続く。
ベルメールは本を閉じ、右手で“スチャッ”と、眼鏡のずれを直して、得意げな顔をしながら高らかに言い放った。
「ふふふ、華麗に解決して見せましょう!! 犯人は貴方です導師殿!!」
(えええっ……。探偵ごっこが始まった!?)
「なぁ~んですか、この茶番。シャーマンから、屍術師、探偵とこの男も忙しいですね」
フローも呆れた様子でボヤいた。
(そうだね、私もよく分からないよ……)
みんな茫然として言葉が出ない、それをいいことに彼は嬉しそうに話しだした。
「この大聖堂の鍵は彼の部屋にあるそうですね? そして、第一発見者もあなただ!! 聖女様はネグリジェを着て犯人と会っている。それに争った形跡がない! つまりごく親しい人間に殺されたと言う事です!!」
(いくら親しくても、ネグリジェ姿で会いません!! あああっ!! もう!! この茶番、終わらせよう!)
私は我慢できずに、彼の推理を止めた。
「待ってください!!」
皆の視線が私に集まる。
「聖女様が薬や魔法で動けなくされていたら……。着替えられませんし、抵抗も出来ませんよね?」
ベルメールは驚いて私を見ると、言葉を詰まらせた。私は続ける。
「クラウス導師には聖女様を殺す動機が有りません。 二人の仲は、皆さんがご存知の通り良好です。喧嘩や言い争いなども有りません。それに、大聖堂の鍵は導師の部屋に有りますが、寺院関係者は彼の部屋のどこに鍵が保管されているのかを知っています。導師が不在だったり、眠っている間に鍵を持ち出すことも可能じゃないでしょうか? 」
『確かに』『それもそうだ』などと声が聞こえてくる。
ベルメールの耳にも届いたようで、彼はワナワナと震えだした。一方的に導師を疑うのはやめてもらいたい。しかし、予想に反して彼は笑い出したのだ。
「むむむ!……ふふふ、尻尾を出しましたねェ! これは罠ですッ!! 犯人の自白を狙っていたのです!! 犯人は貴方だ!! お喋りな青髪の侍女!!」
(……わ、私ぃ!?)




