第11話 怪しい展開は不審者を呼ぶ
「ちょっと待ったー!!」
活きのイイ声と共に現れた怪しい男。その男は、騎士達によって捕まり、ずるずると部屋から引きずり出されようとしている。
だがこの男、引きずられながらも不敵な笑みを浮かべている。彼は大臣達に向けてアピールを始めた。
「待ってくださいッ!! 僕は死者の魂を呼んで、その声を聴くことが出来ます!! 聖女から、誰が犯人かを直接聞きたくないですかァ?」
その言葉を聞いて、室内にいる使用人達はざわめく。
近くに居たリズは『何!? なに!? 何が起きるの!?』と、興味深そうに男を見ようと背伸びする。逆に、アリサは私の腕にしがみつき、震えていた。
この場が混乱に飲まれる前に、マジェンダ大臣が窘めた。
「皆、鎮まりなさい。そんな胡散臭い奴の言葉など……」
「ほう! 面白いじゃないですか?」
そのよく響く声を聞いて、再び室内は静かになる。この声はシアン大臣だ。彼は言葉を続ける。
「おい、連れて行くのは待て。……犯人に繋がる情報が出るなら、やらせてみてもいいのでは?」
シアン大臣がニヤリと笑いながらマジェンダ大臣に言った。
(ええ゛っ?? 本気で言ってる!?)
マジェンダ大臣も私と同じ考えだったのか、シアン大臣に反論した。
「何をバカな事を! どこの馬の骨とも知れない奴の言葉を信じるのか?」
「いいや、全てを信じる訳じゃありません。試すだけ試せばいいのです。成功すればそれでいい。失敗なら、こいつも城に侵入した賊として処分します。マジェンダ大臣は、犯人が知りたくはないのですか? それとも……知られて困る事があるとか?」
「――くっ!」
言葉に詰まった彼女を見て、嬉しそうな彼はイェロー大臣に尋ねた。
「イェロー大臣はいかがでしょうか?」
「……ふん。まずはその男の話を聞こうか? 怪しいと判断したら即牢獄行きだ。だが、全員をこの茶番に付き合わせるつもりはない」
イェロー大臣は鋭い目で、シアン大臣とその謎の男を見て言い放った。更に彼は私達使用人を見て話を続ける。
「皆、集まってくれてありがとう。仕事に戻ってくれ。今後のスケジュールは追って連絡する。三大臣と騎士団長・魔術師団長・女神寺院の関係者は残ってくれ。あと、昨晩夜勤だった聖女様の侍女も。以上だ」
集会の終りを聞いて、皆ほっと肩をなで下ろした。そして続々と退室し、持ち場へと戻って行く。昨晩の夜勤だったリズとアリサは、お互い不安そうに顔を見合っている。
あの男、どうやって魂を呼んで犯人を聞くつもりなんだろう? 肝心のフローはここに居るのに。
私とフローは、お互いに見つめ合って首を傾げる。
しかし、その技術に興味があった。どんな方法で呼ぶのだろう? 異国の魔法とか!? ……後学の為に、ぜひ見学したいっ!!
私の思考を察知したのだろう。フローの顔が『え゛っ!!』と言わんばかりに歪んだ。私は早速行動に出る。
「ルイス様? 私も女神寺院の関係者として、この場に残りたいのです。よろしいでしょうか??」
「もちろん、ダメですよ。僕たちも退室します」
笑顔でやんわりと断られてしまった。
(え~頼むよ!! ルイス君!!)
私はぐいっと彼に近寄り懇願した。
「そこを何とか! 部屋の端で大人しくしています。騒ぎは起こしませんから!!」
「わ、わかりました。そんなに近寄らないでください。はぁ……確認してきます」
彼は小さくため息を吐くと、上司である第三騎士団・団長に話を付けに行った。彼らは二言三言交わすと、ルイスはすぐに戻ってきた。
「フローティア嬢、許可を貰いました。目立った行動は避けてくださいね?」
「はい! ありがとうございます」
(やった~! 謎の魔法! 魔法っ!!……いやいやいや!! それよりも、あの男が何をするのか見張らないと)
私は邪念を振り払うと、手をギュッと握り締めた。そんな私の様子を見たフローは呆れながらも注意する。
「はぁ……魔法や、知らない技術が絡むとメルは変な行動力を発揮するのですから……目立った行動をしないでくださいね?」
私は「もちろん!」という意志を込めて頷いた。
私達は、部屋の前方で怪しい男を囲って尋問する輪の傍に近寄る。シアン大臣が中心となって、男と話をしているようだ。
「どういう事だ? 死者の魂を呼ぶだと?」
「ええ、僕は諸国を旅する流浪のシャーマン・ベルメールと申します。以後お見知りおきを。秘術を使い死者の魂を呼び、魂の声を聞き伝える事を生業としています」
「ここに来た、目的は何だ?」
「やだなァ、純粋に困っている方を助けたいのです。ましてや殺されたとなったら、その死者の魂はさぞ無念でしょう? 未練で地上に留まっても、お可哀そうですから……そんな、迷える魂を救いたいのです!」
(――未練)
確かにそうだ。フローもやりたかったことや、心残りな事があるはず。彼が言うように未練で魂が迷ってしまったら……。
「迷ってませんよ? 一切」
ベルメールの話を聞いていた、フローが静かに即答した。その言葉に私は驚いて、眉をしかめた。そ、そうなんだ……。彼女は落ち着いた面持ちで、他人事の様に大臣とベルメールの話を聞いていた。
「ではでは~。論より証拠。早速お見せいたしましょう。大聖堂に居る聖女様の元に案内していただけますか? ご遺体の傍でないとこの術は使えないものでして」
三大臣達は互いにアイコンタクトを取り頷いた。そして、静かにイェロー大臣がその場にいる皆に告げる。
「皆、場所を変えよう。大聖堂へ」




