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死んだ聖女は天使と遊ぶ ~犯人を捜したいのに、スローライフを強いられます!~  作者: 雪村灯里
第一章 聖女暗殺

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第×話 聖女が死んだ日

 護国ごこくの聖女・メルティアーナが死んだ。


 大聖堂のホールで、仰向けに倒れるうら若き乙女。その胸には、短剣が突き立てられていた。


 白いネグリジェは赤黒く染まり、口からは一筋の血が流れ落ちる。薄桃色の長い髪は乱れ、焦点の合わない紫色の瞳は、虚空を見つめていた。


 彼女が見つかったのは早朝。見つかった時には既に冷たくなっていた。関係者が続々と大聖堂に集まる。


 皆、彼女の変わり果てた姿を見ると、聖女の死を嘆き悲しんだ。事件を聞きつけて、聖女に仕える侍女達と一緒に、私も大聖堂に飛び込んた。


「お願いです! 通してください!!」


 私はとても慌てていた。真実を確かめたかった!

 遺体のそばに駆け寄ろうとするが、近くに居た侍女頭に制止される。


「お願い! 離して!!」

「フローティア、ダメです。お医者様が検死するまで触れてはなりません!」


 その言葉と共に、聖女の遺体は白い布で隠される。

 私は聖女に向けて手を伸ばした。水色の髪を振り乱し、薄紫色の瞳から涙を零して泣き叫ぶ。


「嘘よ! そんな……こんな事って……なぜあなたが?……聖女は……」


『……ダメ』


 言い切る前に頭に声が響いた。


(この声は……)


 でも、同時に胸が苦しくなった。……視界に黒いもやがかかる。呼吸が荒くなり、立っていられない。私が倒れた事により、新たな騒ぎが起こる。


「フロー!! 大丈夫!? ねぇ、フロー!?」


 侍女頭は私の肩を叩く。


(こんな時に貧血? ダメ、それよりも言わないと……)


 私は声を発しようとするが、苦しくて言葉にならない。そんな私の姿を見て、周囲からは憐れむ声が聞こえる。


「『凍れる花』の彼女が、ここまで取り乱すなんて……」

可哀かわいそうに……よほど聖女様が亡くなられたのがショックだったのだろう」

 

(そうじゃないの! それよりも……)

 

「失礼……」


 その騒ぎを聞いて、青年が1人近づいて来た。低く響いた声を聞いて、辺りは静まり返る。


 この声は……聖女を守る『第三騎士団』に所属するルイスだ。彼は一言断りを入れると、倒れた私の目元にそっと触れて確認した。


「ショックで貧血を起こしたのかもしれません。僕が医務室に運びましょう。誰か一緒に来てくれませんか?」


 彼は私を侍女頭から受取り、横抱きで軽々と持ち上げた。それを見てフローティアの侍女仲間が名乗りを上げる。


「わ、私が一緒に参ります!」

「ありがとう」


(ちがう……そうじゃない……真実を言わなきゃ……)


 私は黒く染まりゆく視界の中、遠ざかるフローティア(・・・・・・)の遺体を見ていた。

 そう。今、生きて運ばれている私が――


 本物の聖女・メルティアーナ。

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