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繋がる意思、巡り合う運命②

2話目です

まだ話の核心には至りません。

後、2話ほどは掛かるかもしれません。

 冬の寒さに震えながら何とか家までついた。

 家の鍵を開け、玄関へと入る。

 

 「今タオル持ってくるから、ちょっとここで待ってろ」

 

 朱莉を玄関に残し階段を下ろし二階へと上がる。

 この家は少し特殊で、1階が作業部屋、2階がリビングやダイニング、3階が寝室という風な構造になっている。

 ちなみに、1階は診療所を運営している。

 脱衣所から綺麗なタオルを3つほどひっつかみ再び玄関へ。


 「ほい、タオル、3枚くらい置いておくから、ちゃんと拭けたら2階に上がってこい。上がり切って直ぐがリビングだから、そこ集合な」

 

 伝えたいことだけ簡潔に言い、2階へと上がる。

 リビングはつい30分前までは暖房が掛かっていたので、ほんのり温かかった。

 とりあえず、暖房、床暖、電気ストーブを強めに設定し、お湯張りもしておく。子供が好むココアみたいな飲み物は無いので、冷蔵庫にあった牛乳をコップに注ぎそのままレンジの中へ。

 一通りのことを終わらせて、俺もすっかり濡れてしまったので着替えることにする。

 

 「そう言えば、あいつが着られる服なんてあったか?」


 子供が着られる服なんてあるのかとクローゼットを漁ると、高校の頃に使っていた白の長そでシャツとジャージのズボンを発見した。

 後はそれにパーカーでも羽織らせれば十分だろう。

 すると、拭き終わったのか朱莉がリビングに入ってきた。


 「お、ちゃんと拭けたな。今、風呂を沸かしているからそれまでヒーターの前で温まっておけ、これホットミルクだから」


 ホットミルクを持たせてヒーターの前に座らせる。

 ここまで来ても、一向に愛想もクソも無い。

 別に特段気になりはしないが、事情は後で聞くとして今は時間も迫っているので年越し蕎麦の用意をする。

 10分ほどして、風呂が沸いたことを無機質な機械音が知らせた。


 「風呂も沸いたから先入ってこい。廊下を出て右手側にあるから」

 「後これ着替え、濡れた服は洗濯機の中に入れておけ、乾かすから」


 彼女はコクと頷き、廊下の方へ消えていった。


 「はぁ……ようやく行ったか…」


 正直、扱いづらくて仕方が無い。面識が無いのもあるが何せ全く喋ろうとしないのでコミュニケーションもクソも無い。

 このままで、本当に聞きたいことが聞けるのだろうか。

 その前に、俺の辛抱が最後まで持つのか。

 子供には出来るだけ優しくしたいのだが、何せ本家の血筋だと知ってしまいどうにも当りがきつくなってしまった。

 しかし、怯えられても困るので、関わり方を少しは改めるべきかと頭を悩ませる。


 「そうだ、一先ず早苗さんに電話しておかないと」


 固定電話の履歴から、早苗さんに電話をする。

 電話は直ぐつながった。

 そして、早苗さんには失踪した子供はこっちで保護したことを伝えた。

 早苗さんは、どうして県外の俺の家に? と驚いていたが、名前を言うと一致したのかありがとうございますと言った。

 

 「良かったです、篤史様が保護して頂けているなら私共も安心出来ます」


 「保護したって言っても一時的にですよ、明日にでも本家に送りますので」


 今日は仕方ないにしても、長居させる理由は無い。

 こんな、顔も見た事無い男といるより親早苗 「それで、あのクソババアは何て言っていましたか? 流石に大事な孫が失踪したっていうんだから、生存が確認できて今頃一安心でしょうね~」


 「…………」


 言い難いのか、早苗さんは無言になった。

 クソババアというのは、現在の倉田家を牛耳っている「倉田真白」のことだ。

 真白、という名前でも本性は暗黒という言葉すら生温い程の真っ黒で、現在の倉田の地位すらも自らの夫から奪い取ったものだったりする。

 身内や自分の手駒になる人々には最大限の愛情を向け、逆に敵対心を抱くような人には容赦なく悪意をぶつける。

 そしてその敵側には俺と、恐らく朱莉も含まれている。

 それだけで、彼女の本家での立ち位置がどのようなものか何となく察することが出来た。


 「……とりあえず、明日の夕方くらいに本家に出向きます、あいつにもそう伝えといてください」

 「はい、畏まりました」


 心につっかかりを感じながら電話を切る。

 別に、同族を見つけたから安心した訳ではない。でも少なくとも今は、先ほどよりも彼女に優しくできる気がした。


 そこから数十分したところで、彼女はお風呂から上がって来た。

 

 「上がったか、ちゃんと温まれたか?」

 「は、はい………お陰様で………」


 お風呂で何かが吹っ切れたのか、当初とは比べ物にならないほど物腰柔らかく喋る彼女に思わず驚き、彼女を見つめてしまう。


 「あ、あの、私の顔に何かついていますか?」


 コテンと首を傾げ俺を見上げてくる。

雨に張り付いた前髪で、明るくなった後でも彼女の顔は良く見えていなかったが、よく見れば、顔立ちの良い、可愛らしい子だった。

身長はやや低めであるが、スラっと伸びた黒髪に目鼻立ちよい顔の造形をしており、正統派の美人と言った感じだ。


 「いや、何でもない……」


 不覚にも可愛いと思ってしまい思わず顔を逸らす。


 「と、とりあえず、上がったんならそこの椅子に座っててくれ、もう直ぐ蕎麦が茹で上がるからな」

 「蕎麦、ですか?」

 

 彼女はコトンと首を傾げる。

 その姿が妙に子供っぽくて、また目を逸らした。

 

 「何だ、年越し蕎麦知らないのか?」

 「いえ、知っていますけど………」

 

 何やら悩んでいる、いや、困惑している顔か、この顔は。


 「それって、私の分もと言うことですか?」

 「ん、そうだが? 流石に俺も誰かを目の前にして食べ物を食う度胸はねえよ」

 「い、いえ頂けません、お風呂も頂いて、それに食事まで……」

 「何だ食わないのか? 長いこと外に居て腹減ってると思ったんだけどな?」

 「そ、そんなことはっ────」


 反論をしようとすると、俺ではない目の前の彼女のお腹が可愛らしくなった。


 「……………っ…………///」

 「腹減ってんじゃねえか、素直になれば良いのに」


 やはり、口では何とでも言えても体は正直なものだ。

 多分、キッチンから漂ってくる出汁の匂いがそうさせているのだろうな、俺も空腹感を抑えられない。

 

 「さっさと席に着け、もう茹で上がるぞ」


 彼女はまだ渋っていたが、最後には、「では、頂きます」と陥落した。

 茹で上がった麺を取り出し、軽く水を切った後、既に出汁の入った温かさの残るお椀に麺を入れる。

 そしてその上に、カラッと揚げ上がった海老天を贅沢に2匹乗せる。

 またその横に、とり天と一つ入れ、大葉天も入れておく。

 最後に小皿に薬味としてネギと生姜を入れておけば完成だ。


 「お待たせ」


 手ごろなお盆に蕎麦と温かいお茶を入れて座っている彼女の前へと置く。


 「あ、ありがとうございます………」

 「お、ちゃんと感謝は出来るみたいだな?」

 「そ、それはしますよ」

 「ん? そうだったっけな、さっきまでは殆ど反応を示さなかったのに」

 「あ、あれは……その………」


 バツが悪いのか、そっと彼女は目を逸らした。

 こう見ると、俺が思うよりも大分表情豊かな子だ、仕草は少し子供っぽいし、反応が一々可愛らしい。

 大方、さっきまでの彼女と同一人物とは思えなかった。

 人は此処まで変わるのだと思ったが、こっちが本来の彼女だとすれば、よほどこっちの方が彼女に似合うと思った。


 「じゃ、食べるか」

 「は、はい」


 2人で手を合わせる。

 箸を持ち早速蕎麦を──と思ったが、俺はそれよりも俺人生一と言っていい程イイ感じに海老が上がったので、ガブっと勢いよく噛みつく。


 「おほっ熱っ、でも旨!」


 我ながら、そこらの料亭なら出せるくらいの一品に仕上がった海老天に思わず感嘆の声を禁じ得ない。

 とり天も良い感じに揚げ上がっていて、正しく絶品に相応しい物となっていた。

 次は、蕎麦をと、適量箸で掴み、口に運ぶ。

 カツオ出汁と昆布出汁、そして少しの頤出汁の風味が口一杯に広がった。

 麺も、流石専門店から取り寄せただけあって、風味も弾力ものど越しも一級品だ。こんなの食べたら、もう市販品に戻れなくなるほどの圧倒的な旨味がそこにはあった。

 この味なら、きっと彼女も喜んでくれるだろうと、彼女を見た。しかし、


 「食べないのか?」


 箸置きに置かれた彼女の箸は、未だにその定位置を保っているままだった。


 「あ、いえ、すみません、少しぼおっとしてしまって……」


 そう言い、下手くそな笑顔を俺に向けてくる。

 箸を持ち、お盆に手を付けて2本ほど蕎麦を箸で掴む。

 湯立つ蕎麦をしばらく見つめていたものの、一朝一夕では無いであろう所作で、蕎麦を口に含んだ。

 そして、しばらく咀嚼する。

 食べているのは同じもののはずなのに、謎に緊張してくる。これでもし、あまり美味しくない反応をされれば、ここで泣き崩れる自信があった。

 ほんの、数秒が数分に感じられ、至って冷静に、彼女の反応を待つ。すると、


 「…………っ………⁉」


 彼女の大きな瞳から頬を伝い、一粒の涙が零れ落ちた。しかし、涙は一粒に留まらず、一つ、また一つと涙が頬を伝っていって、あっという間に彼女を涙で染め上げた。


 「あった…………かいなぁ…………」


 彼女は、何度も何度もそんな言葉を口ずさむ。

 温かい、温かいと、まるで譫言のように、それでいてハッキリと聞こえて来て、彼女の感情は十分すぎるほど伝わって来た。

 美味しいとは、言われていない。

 しかし、彼女の反応を見ていれば、美味しいと言うその感想でさえ、薄っぺらいものに感じていた。

 ならば、今はこの反応だけで、俺にとっては十分だった。

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