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異世界モノ短編

転生先が二次元世界だったので俺だけ三次元で無双する。

作者: 寒がり

 異世界転生についての説明はもはや不要であろう。

 経緯もさして重要でない。俺はトラックに轢かれるか、デスマ中に倒れるか、教室ごと拉致られるかして女神様と対面している。

 この女神は良心的なタイプでチートスキルはランダム付与である(念のために述べておけば悪虐な女神に復讐したり、ハズレスキルの効用を見出して常識を覆すタイプの物語は始まらなかったということだ)。


「あなたには二次元の世界に転生し、魔王から世界を救っていただきます」


 なるほど。アニメやゲームの世界に転生する系か。

 二次元美少女。ワクワク。


 おっ、お馴染みの発光エフェクト。

 そして気がつくと俺は……二次元の世界に居た。

 

 そう、正しく二次元の。

 XY平面のみの俯瞰型スクロールゲーム画面的な意味での二次元の世界に。厚みが無いのだが…。

 いや、それは二次元違いです女神様!

 さすがに、転生先を「二次元世界」と説明して物理的二次元世界に送り込むのは詐欺です。


 美少女居ても顔分からんじゃん。

 そもそも顔という概念あるのかこの世界。


 そんな二次元世界で圧倒的に浮いている三次元の俺。世界を上下に突き抜けてるんですけど、大丈夫そう?

 二次元なら二次元で、俺も二次元でよかったじゃん。


 果てしなく続く平面空間と虚無との間の地平線なんて見たくなかったよ。

 え?「チートスキル『三次元』を与えます!魔王攻略頑張ってください。女神」?

 おいィィィィ。この突き抜けてるの、チートスキルだったんかい。


「勇者様、よくぞ召喚に応じてくださった!この世界は今、魔王の危機に瀕しております。どうか私達をお救いください」


 俺を召喚したと思しき、国王(?)が歩み寄ってくる。

 そのすぐ後ろには、王妃(?)、大臣(?)、術師(?)が居る。

 正直上から見ているので自信がないが、大きな冠をかぶっているのが国王、小さな冠が王妃、焼け野原が大臣で、白いローブが術師だと思われ。


 なんだかんだで魔王討伐を了承した俺は(その過程は概ね標準的な異世界転生同様なので割愛する)、勇者の剣に挑戦することになった。


「こちらが勇者の剣と呼ばれている謎の石です。勇者にしか引き抜けないと言い伝えにはございます」


 ふむ。この剣は二次元世界の住民には石に見えるのか。

 勇者の剣は、世界に対して垂直に突き刺さっていた。なるほど、二次元世界の住民には空間に突き刺さっている刀身の断面だけが見え、それが鋭い鏃型の石に見えるわけだ。

 

 俺は、勇者の剣をZ軸方向に引き抜き、世界平面上で世界に対し平行に勇者の剣を構える。

 二次元世界の住民たちには、石が突然剣に変わったように見えたことだろう。


「おお!勇者様が伝説の勇者の剣を!真の勇者様だ!」

「勇者様万歳!」

 

 俺は、勇者の剣を手に旅へ出た。

 この世界の剣術は、平面上で剣を回転させるか突き出すのみであり(そういうPCゲーがあったよなぁ)習得はそれほど難しくなかったので道中で習得した。

 師範はゴブリン。


 何より、世界平面の外からYZ平面に沿っての攻撃、剣道でいう面は、二次元のモンスターにとって防御不能の一撃となった。

 なんだ、三次元、最強じゃん。


 魔王軍四天王に渾身の面!!(案ずるな。峰打ちだ)を叩き込み、魔王城の結界をジャンプで飛び越えて魔王の間に至る。


 道中、念願の(?)二次元美少女(だと俺は信じている)魔法使いとヒーラーが仲間になった。

 ヒーラーは容姿と言動が中性的で分かりにくいが、多分男だと思う。

 この世界って平面だから同志魔法使いみたいによほど豊かなものが前方に突出していないと性別が分からない。

 二次元育ちの皆さんはそれでもきちんと区別がつくそうだが、三次元に毒されてしまった俺にはごめんなさい、ちょっとよくわからないです。


「勇者よ!よくぞ我が最強の結界を破りここまで辿り着いた。褒めてやろう。だが、ここがお前の墓場だ!」


 すごい威圧感だけど、威圧感が平面的(物理)でイマイチ怖くないんだよなぁ。

 正直、面一撃で倒せる気がしたけど、パーティの仲間に花を持たせるのも重要だろう。

 俺はジャンプしながら魔王に近づく。


「おのれ!瞬間移動か、小癪な!」


 飛んでるだけなんだがな。

 やはり次元が違ったな、物理的に。

 いくら強力な魔術も、世界平面上にしか及ばない以上、回避は容易だ。


「今だ!魔法で魔王を!」


 魔王の背後から前に手を回し魔王を羽交締めする。羽交締めと言ってもこの世界の住民の手は、縮められると短く掴みづらいのでバックハグの要領で魔王の前で手を組み、逃がさないように拘束するのだが。


「ふえぇ!?」


 魔王は不意を突かれ驚いたのか素っ頓狂な声を上げてジタバタと抵抗する。


「もう逃さないぞ、魔王!!!」


「ひゃうっ!!」


 ボスンと何かが爆発したような音が聞こえた気もするが気のせいだろう。観念したのか魔王はおとなしくなる。


「えっ!?」

「何と!大胆な…」


 怒りと屈辱のあまり赤面する(というか髪から覗く耳を真っ赤にする)魔王はいいとして何かに驚く仲間たち。

 あれ?やらかした?


「ゆ、勇者様、それは求婚の……お前を閉じ込めて誰にも渡さないという……」


 あっ!そういうことか。

 迂闊だった。二次元世界では、囲うということの意味合いが三次元世界と異なるのだ。


 例えば、家の壁。この世界には屋根という概念がなく、壁で囲えば屋内という判定になり雨が入って来ない。

 あるいはガラス瓶。これもガラスの壁面で囲われた部分は密閉されているという判定になる。

 だから今俺がやっていることは、魔王を捕まえるというよりも閉じ込めると言った方がこの世界の住民の感覚に近い。

 そして、そのような行為の文化的な意味は求婚。しかも、結構アブノーマルでオラついた感じの奴だそうだ。壁ドンの10倍強力な奴とでも言えば三次元世界の住民にも伝わるだろう。


 俺は魔王に突然、強引に求婚し始めた(まさに)勇者になっていたようだ。

 これが、カルチャーショック!


 ちなみに俺に拘束(密封?)されたことで外界からの魔力供給を絶たれ魔術の鎧が消失したことで気づいたのだが、魔王は女だった。具体的になぜ、どういう部分で気づいたかはおそらく想像通りでありテンプレ通りであるから割愛する。


 なんかもう戦う雰囲気じゃなくなり、話し合ううちに人間サイドと魔王サイドとの誤解も解け講和と相成った。ご都合主義展開である。


 そして俺は、魔王とめでたく結ばれた。魔王は「強者に強引に迫られるシチュ好き」との事だった。それでいいのか…。俺も王国と魔王軍との講話に奔走する中で、魔王を憎からず想うようになり、人間と魔王の平和を象徴する盛大な結婚式が執り行われた。

 あと、なぜか王国でバックハグ・プロポーズが異様なブームになったらしい。


 魔王城での生活も存外楽しく、四天王に稽古をつけたり、森に出没する魔獣退治を手伝いながら美しい妻と暮らしている。


 俺にもようやく二次元(物理)の良さが分かり始めて来た。こればかりは三次元の住民には伝わらないだろうが。女神様に元の世界に返そうかと聞かれたが丁重にお断りした。俺は二次元(物理)に生きる!


 ところで、俺と魔王の子は何次元なのだろうか?2次元か3次元か、ひょっとしてハーフってことで2.5次元の子が生まれてきたりするのだろうか?まだまだ先のことだが少し楽しみだ。

オチは特にない!だって、平面だから。

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