アンジュのことが好き
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「アンジュ、いる?」
ルカとルナと話していて、いったん心を落ち着かせた僕。
そんな時、部屋の扉がノックされた。
その声に心臓が跳ねる。
何だか懐かしい気持ちにもなった。どうしてか、以前にもこんなことがあったような気がしたのだ。
「何~お兄」
ルカが部屋の扉に近づいて、ドアを開けた。
「っ!」
ルカはルイを見て、一瞬動きが固まった。
何事かとチラリと覗き見ると、
「っ!」
目が赤く腫れていた。
僕たちが話している時、泣いていたのか? 一人で。
胸がギュッと掴まれた気がした。
「アンジュと、話したくて」
ルイが静かにそう言った。
ルカも、ルナも、僕も動きが停止する。
一分ほど停止した後、僕はゆっくりと立ち上がっていた。
素直に彼のもとへ近寄る。ルイは、嬉しそうに僕に微笑みかけた。
「ルカ、ルナ、おやすみ」
「おやすみ」
「「お、おやすみ~」」
僕とルイの挨拶に、彼女たちはようやく現実に戻ったように、手を振ってくれた。
「話してたところ、ごめんね」
部屋に戻って早々、ルイが謝罪をしてきたので、僕は一生懸命首を横に振った。
謝られると、胸が苦しくなる。
ルイが悲しそうに、寂しそうに笑ったり、謝ったり、そういう仕草は…あまり好きじゃない。
僕はルイに近づくと、彼の目の下に指をあてて優しくこすった。
ルイは身を委ねるみたいに、目を閉じてそれを受け入れた。
「………泣いてた、のか?」
絞り出した声は掠れてしまった。緊張で震えてもいる。
「………うん」
ルイは正直に頷いた。
今、初めて彼とちゃんと目が合った気がする。
「…話って?」
「そう、俺…アンジュに伝えてなかったことがある」
僕はごくりと息を飲むと、続きを促した。
「その前に、アンジュの悩みを聞かせて欲しい」
「え…?」
「アンジュが悩んでること、教えて?」
ルイが僕を見る真っ直ぐな眼差し。綺麗な瞳が揺れる。
「………ルイは、僕の記憶が戻ってほしいって…思ってるよね?」
肯定されたら傷つき、否定されても信じられないくせに、言ってしまった。
閉じた目に力を入れて、ルイの返答を待つ。
自分の心臓の音がうるさい。
「うーん、どっちでも…ないかな」
でも、ルイの答えは肯定でも否定でもなかった。
僕は顔を上げた。優しい顔をしたルイが見える。
「アンジュとの思い出、忘れちゃったのは寂しいけど…それってアンジュのせいではないじゃん」
「…………」
「良かった。俺が考えてたような悩みだった」
「………」
「いや良かったは違うね、ごめん。……悩ませて、ごめんね」
「………」
僕はただ首を横に振るだけで、精一杯だった。
「アンジュ、俺ね、俺……アンジュのことが好き、なんだ」
「へ………」
「いきなりこんなこと言っても信じられないと思う。でも…好き」
「……あっ…えっ、でも…」
僕の戸惑いを察したように、ルイは先に口を開いた。
「俺はね、アンジュ……目の前にいる君に、言ってるんだよ」
ルイの視線が突き刺さる。恥ずかしくて顔を逸らしたいのに、そうさせてくれない。ただ、彼の瞳に吸い込まれるように、視線を逸らせなかった。
「君のことが好きで、可愛くて、愛おしいって思うよ。………俺にできることは、気持ちを伝えることだって思ったから」
「…………」
「アンジュはアンジュだから、俺の好きなアンジュは変わらないし………好き、なんだ。ごめん、語彙力ないね」
好きだと連呼され、僕の頭は爆発寸前だった。
信じられない。嬉しい。どうしよう。
色んな感情が渦を巻く。
「アンジュも、自分の気持ちに蓋をしないで欲しい。今の、君が…俺をどう想っているのか、聞かせて欲しいんだ」
いいんだろうか、彼の気持ちを受け入れて。
記憶が戻らないままの僕が、彼を好きになって…許されるだろうか。
そんな不安もよぎる。
でも、それ以上に…僕も、ルイが好きなんだ。どうしようもないくらい。
自分自身に嫉妬してしまうくらい。




