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いる……と思う

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「アンジュ?」


「ごめん……何?」


「ううん、大したことじゃないよ」


 最近、アンジュが上の空なことが増えた。彼が目覚めてもう一年が経とうとしている。

 ぼーっとしていることもあるし、俺の話を聞いていなくて、今みたいになることも多々ある。

 何か悩みごとかと聞いてみても、首を横に振るだけ。それ以上は何も聞くことができない。


「やっぱり……ルイは…」


「え?」


「何でもない…」


「………」


 また、俺は何かを間違えた?

 その時、俺の視界の端にあるノートが見えた。


「………」







 **

 ルイと上手く話せない。彼の顔を見ると、緊張してしまってろくに目も合わせられないし、見られるのも恥ずかしい。


 自分がどう見られているか、こんなに気になるなんて変だ。

 それに、ふとした時に不安が襲ってきて、唐突に怖くなることもあって。それのせいでルイの話もちゃんと聞けずに、気を遣わせている。


 申し訳ないのに、僕のことを心配してくれるのは嬉しくて…

 こんなのただの構ってちゃんだ。ルイだっていい迷惑だろう。

 でも、自分の不安をルイに話すわけにはいかなくて、自分のこの気持ちもどうすればいいのか分からずにいた。


「アーンジュさんっ!」


「?」


 夕ご飯を終え、ルイと部屋に戻ろうと思っていた僕は、ルイの妹であるルカに呼び止められた。


「この後、私たちの部屋…来ない?」


 僕に近づいて、上目遣いでそう聞いてくる。

 彼女の仕草や行動などを、可愛いとは思うけれど、ドキドキはしない。ルイの時みたいには。

 ルカの後ろにはルナもいる。二人は双子で顔がとても似ている。ルナはルカと比べて大人しく、いつも自信がなさそうな感じ。二人にはそれぞれ違った可愛さがある。


 最初はどちらがどちらか分からなくて焦ったものだ。

 それでも、今では二人の違いがはっきりと分かるようになった。性格も全然違うし、今なら顔の違いも感じられる。


 ルカのお誘いに戸惑った僕は、隣にいたルイを見上げた。


「行っておいで。俺もちょっとやることがあるから」


 彼はそう言って、僕の頭を撫でた。





 特に断る理由もなかった僕は、ルカとルナの後をついて、ルイの部屋の隣の部屋に入った。


 二人の部屋に入ったのはこれが初めてだ。

 ルイの部屋より少し広めで、可愛らしいピンク色に染まった室内に、ベッドが二つ置いてある。真ん中に小さめのテーブルが置かれてある。

 可愛らしい部屋だなと思った。


「座って座って!」


 ルカがそう言って、僕の背中を押す。僕は促されるまま、テーブル近くに腰を下ろした。

 彼女たちも、僕を挟んで隣に座った。


「ね、アンジュさん!」


「…?」


 ルカの声に耳を傾ける。


「そろそろ目が覚めて一年だけど、ここでの生活…どう?」


 大きな丸い瞳を向けて、キラキラした目で聞いてくる。

 近くで見ると、ルイとあまり似ていないような気がする。特に瞳が。


「え…っと、楽しい?よ」


 ルカの圧に押されながら、そう答えた。

 これは僕の本心だ。ここでの生活はとても楽しく、充実している。


「そっか!」


 僕の返答に満足したのか、ルカは嬉しそうにそう頷いた。


「話って…そのこと?」


「え?」


「いや、僕を部屋に呼ぶって…何か大事な話があるのかなって」


「………」


 そこで初めて、ルカの顔が少し曇った気がした。何か変なことを言ってしまっただろうか。


「あのね、アンジュさん」


 すると、ルカに代わって今度はルナが口を開いた。

 視線をずらして、ルナの方を見る。

 顔を真っ赤にした彼女は、どこか覚悟を決めたような瞳で僕を見ている。やっぱり、似ていない。


「私…好きな人、がいる…の」


「………」


 初耳だ。でも確かに、これはルイの前では言えないことかもしれない。彼はシスコンだし。


「カヤくん、なんだけど……」


「カヤ……」


 ルイの親友だと紹介された人だ。

 明るくて、話し上手で、気遣いもできて、ルイも…僕と話していた時より楽しそうだった。

 カヤと話すルイは、全てをさらけ出しているような、心から信頼している相手みたいな感じだった。そんな二人を見ていると、モヤモヤする。

 カヤはすごくいい人なのに、僕にも優しくしてくれるのに、どこか嫌悪感があって、雰囲気が苦手だと、そんなことを思ってしまう自分が嫌だった。


「アンジュさん…だったら、好きな人にどうやって振り向いてもらう?」


 ルナの瞳が震える。彼女の緊張がこちらまで伝わって、移ってしまいそうだ。


「アンジュさんは、好きな人…いる?」


 ルカがそう聞いてくる。


 この気持ちが何なのか、ずっと考えていた。答えはとっくに出ていたのに、気づかないふりをしていた。


「いる……と思う」


 ただ、まだ自信がなかった。それを自覚することが、口に出すことが怖い。


「僕は、………好きな人、が幸せなら…それでいいかな」


 二人は僕の話を真剣に聞いた後、ルカがこう言った。


「嘘、そんなこと思ってないくせに」


「っ……」


 ルイの幸せを願っているのは本当だ。でも、心のどこかで彼の隣に僕以外の誰かがいることが嫌だと思っている。それを見透かされた気がした。


「…………僕以外と、楽しそうに話しているのを見るだけで……モヤモヤしちゃうんだ」


「分かる」


 僕が精いっぱい絞り出した悩みを、ルナが拾い上げてくれた。

 顔を上げて彼女を見ると、共感の眼差しで溢れていた。


「それ、やきもちやいてるんだよ。好きな人になら…普通のことだよ」


 普通のこと、そう言ってもらえるだけで心が軽くなった。


 人に話すだけで、少しだけすっきりもした。相手が彼女たちだからというのもあるだろう。


「そっか、やきもち……」


「いいな~私も好きな人欲しい!」


 ルカが僕とルナを見て、羨ましそうにそう声を上げた。


 人を好きになること、それはいいことばかりじゃない。

 自分の醜さや、器の小ささを思い知らされるし、苦しく思うこともある。それでも、嬉しいこともある。


 二人と話して、僕の心の一部分は晴れたけれど、依然として悩みは消えないまま。この悩みは彼女たちにも話せない。


 僕が、向き合うべき問題。



 ルイが……()()()()()()()()()()()()()



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