表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/47

純愛だな

39


 アンジュが目覚めてから、数か月。

 記憶は戻らないまま。でも彼の面影を感じられる時もところどころあって、嬉しく思ったり。

 いや、アンジュはアンジュのままだから、何も変わらないと言えばそうなのだが。

 それに生きてくれさえすれば、万々歳だ。


「ルイ……?」


 彼の声が聞こえて、隣に視線をやると、アンジュが丸い瞳で俺を見つめていた。

 眠り続けていた頃に比べて、少し大きくなった気がする。それに、肉付きも仮の器の時くらいに戻ってきている。まだ細すぎるくらいだけど。


 彼の身体が大きくなったのは、人間の器に戻ったから? 再び成長が始まったのだろうか。

 疑問が湧いてきても、答えてくれる人はもういない。不可思議なこの事態と、俺が向き合っていかなきゃいけないんだ。


「何でもないよ」


 そう言って、彼の頭を撫でると、嬉しそうに目をつむった。


 ちなみに、ミュエルから貰ったアンジュの日記はまだ読めていない。

 読んだら、何かが変わってしまう気がして、怖くて開けられずにいた。


 その代わり、もう一つの魔導書はしっかりと読み込んでいる。そのおかげか、魔力も上手くコントロールできるようになってきた。

 もう、俺とアンジュを脅かす存在はいないだろうけれど、魔力がコントロールできたことによって、自分の力に実感が湧いた気がする。


 俺の記憶も、少しずつだが戻ってきている。どれも日常の思い出ばかりで、徐々に父上と母上の輪郭もはっきりしてきた。二人に会えることはもうないが、俺の中で生き続ける。だから、忘れたくないし、思い出したい。

 大切な存在……


「あ、カヤ」


「?」


 また彼のことを忘れていた。あんなに力になってくれているのに。

 俺のつぶやきに、アンジュが首を傾げる。

 そうだ、アンジュはカヤのことを忘れているんだ。


「カヤっていう…俺の親友がいるんだけど、いつも俺のことを励ましてくれてて……お礼しなきゃなって」


「そっか……」


 俺の説明に、彼は分かっていなさそうな顔で相槌を打った。


「今度家に招待しようと思うんだけど、アンジュも会わない?」


 アンジュは、カヤと仲が良かったとは思う。

 カヤに嫉妬したり、どこか敵対心というか嫌悪感を抱いているところもあったけれど、それでもなんだかんだ心を開いているように見えた。


「ルイが…言うなら」


 そうして俺は、数日後にカヤを家に招待することにした。









「お邪魔しまーす!」


 相変わらず元気いっぱいの声が玄関中に響き渡る。


「どうぞ」


 玄関でカヤを迎え、リビングに案内する。

 今日、父と母は仕事で、ルカとルナは遊びに出かけた。

 俺とカヤとアンジュの三人というわけだ。

 カヤには事前に、アンジュのことを連絡しておいた。だから、彼の見た目や記憶に驚くことはない。


「初めまして~カヤです!」


 リビングに入って早々、椅子に座っていたアンジュに大きな声で近づいていくカヤ。

 アンジュは人見知りしているみたいに、戸惑っている。


「あ……」


「アンジュだよね!分かってるよ~!俺のことは聞いてる?」


 沈黙をつくらせる暇なく、次々と話しかけ距離を詰めていくカヤ。


「あ…ルイの、親友って……」


 アンジュは気圧されながら、小さな声でそう言った。


「やっだ、親友だと思ってくれてるんだ~」


 アンジュの言葉に、カヤは振り向いて俺を見ると、腹の立つニヤニヤとした顔をしてきた。


「あーはいはい、そうですよー」


 適当に返しながらも、俺はこのやりとりを少し嬉しく思った。

 この感じ、久しぶりだ。最近家族以外と話すこともなく、アンジュとも落ち着いた感じで話していたから、ツッコむとかいうこと自体久しぶりすぎる。


「………」


 俺の肯定に一瞬カヤが身体を固まらせたように見えたけれど、再びアンジュに質問を始めたので、多分気のせいだ。


 主にカヤのマシンガントークのおかげで、夕方ごろにはアンジュも人見知りせずに話せるようになっていた。

 やっぱり、カヤはすごい。


 俺の部屋で三人でゲームをしていたら、いつの間にかアンジュが眠ってしまっていた。

 彼を抱き上げて、ベッドに眠らせ、その寝顔を見つめる。彼は唸りながら体勢を変え、すぐに壁のある方へ顔を向けてしまった。


「良かったな」


 カヤが声のトーンを落としてそう言った。俺はカヤに視線を移す。彼はこんなに小さな声で話すことができたのか。


「アンジュと一緒に居られて。……ごめん、良かったな…は違ったかも…」


 彼は少し俯いてそう謝罪した。


「ううん。カヤ、ありがとう。ずっと…俺を励ましてくれて。大事な時にはいつだって、カヤが現れてくれるから、俺は道を間違えないと思ってる」


「は、恥ずかしいこと言うじゃん」


 珍しくカヤが顔を赤くした。珍しく…と言ったが、カヤのこんな表情を見るのは初めてだろう。


「だって…ちゃんと感謝してるから」


 俺は真っ直ぐに彼を見つめた。カヤは少し視線をずらして、またいつものように軽口をたたき始める。


「いやぁだって……あの時のルイ、マジでこの世の終わりみたいな顔してたし(笑)」


 笑い声をこらえながら、そう言ってきた。


「悪かったよ」


「………アンジュの記憶…戻るんか?」


 そして、再び真剣な顔に戻り、俺を見た。


「…分からない。でも、変に刺激したくない。アンジュが一番不安に思っているだろうから」


「まあ、そうだな」


 俺の答えを聞いて、カヤは納得したように天井を見上げた。


「生きてくれてるだけで…嬉しいんだ。記憶が戻っても戻らなくても、アンジュはアンジュだし」


「……純愛だな」


 カヤがそう言って、困ったように笑った。だから、俺も笑い返した。

 俺も彼も少しずつ大人になってきている気がする。アンジュと出会う前までは、カヤとこんな深い話をする関係になるとは思っていなかった。

 変な感じがする、けれど嬉しくもあった。




「………………………」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ