よ、ろしく……
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目が覚めて、最初に思ったこと。
ここは…どこ?
そして次に…
僕は……誰?
「………」
目を開けると、見たことのない天井が広がっていた。
僕はここを知らない。でも自分のいたところがどこだったのかも、思い出せなかった。
ゆっくりと身体を起こして、静かに辺りを見回してみた。
綺麗に整理された部屋。
ここが僕の部屋?
僕が何をしていたのか、誰なのか、全く思い出せない。
ガチャン
ぼーっとしながら部屋を観察していたところ、突然部屋の扉が開き、何かが床に落ちる音がした。
まず床を見ると、マグカップと足が見えた。マグカップは傾いて、中から液体が漏れ出している。さっき聞こえた何かが落ちた音は、これだったらしい。液体は段々と広がっていき、足を…靴下を濡らしていくのが分かる。
その足もとから、ゆっくりと視線を上げていくと、一人の男の子と目が合った。
黒髪で、綺麗な黄色い目をした人。僕を見ながら、口を開けて固まっている。
マグカップを持ったままの手で、驚いた顔をしている彼を、僕もただ見つめてしまっていた。
ただただ見つめあう時間が流れる。
「お兄? 何か音聞こえたけど…」
そこで部屋の扉の奥の方から、知らない女の子の声が聞こえてきた。その声は段々と近づいてきて、やがて姿を現した。
彼女もまた、話していた声をぴたりと止め、僕を見て固まっていた。
「あ、ア…ンジュ………」
(アンジュ…?)
ずっと固まっていた彼が、震える口でそう呼んだ。
彼の言葉に、固まっていた彼女もハッとしたように、彼の背中をパシンと叩いた。
「あっ……。は、じめまして…。俺、ルイって言います」
遠慮気味に、話し出した彼の言葉に耳を傾ける。
「………」
「君の名前はアンジュって言って…、俺の家で一緒に暮らしてる。………君は、階段から落ちて意識を失ってしまって、それでしばらく眠っていたんだ」
「………」
アンジュ、それが僕の名前らしい。ルイという男の口ぶりから、僕は彼の家族というわけではないのだろう。
そして、階段から落ちて意識を失った。眠っていたのか、僕は。
「記憶…ないんだよね?」
ルイが恐る恐る僕に問う。
素直にコクリと頷くと、彼はやっぱりという顔で俯いた。
その表情に、何だか申し訳なくなる。
「…私、ルカって言って、ルイ…この人の妹です。ルナっていう妹がもう一人いて、双子なんだ。……アンジュさん、よろしくね」
再び黙ってしまった彼に代わって、隣にいた彼女が話し出す。
「よ、ろしく……」
思ったように声が出なかった。まるで、久しぶりに口を開いたかのようだ。
ここがどこなのか、自分が誰なのか、よく分からない。
でも、一つだけ分かったことがある。
ここは……暖かい。




