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一から…始めればいい

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「……やはり、消えるつもりなんですね」


 俺に殺してもらわずとも、元々女神はここを去るつもりだった。

 彼女は俺が『殺せない』と言った時も、どこか分かっていたような表情だった。


「ああ、もう未練もないからな」


「………」


「…一つ、確認したいことがある。………153の魂を、この肉体に戻してもいいだろうか?」


 確認、とはどういう意味だろうか。だって女神の意志は強固で、俺が否定しても関係ないといった雰囲気なのに。


「……俺が、決めることではないです。どうしてそんなことを…?」


「…危惧していることがあるのだ」


「………危惧?」


「魂はもう長いこと仮の器にいる。それをこの肉体へと移すのは、かなりのエネルギーを要するということ」


「………」


「我の魔力を使って戻すわけだから、失敗ということは起こり得ない。ただ、膨大なエネルギー故に…移行する時、153の魂全てのエネルギーを使いかねない」


「………」


「他の機能が停止する可能性が高いということだ」


「………」


「記憶が…セーブされる、と思われる」


「!」


 記憶がセーブ……つまり、アンジュの記憶が失われるということだ。


「……だがこれは一時的なもので、153が再び目覚めてから時間が経てば、もとに戻る可能性も高い」


「高い…ということは、」


「ああ。戻らない可能性も少なからずある、ということになる」


 なんて、残酷なんだろう。神様直々にこんな試練を与えられるなど…

 それでも…


「だから、確認した。…もしそれが無理だと言うのなら、153は今まで通り、」


「いえ、お願いします」


 俺の答えは決まっていた。

 アンジュを…戻してあげたい。


「…いいのか?」


「また、一から…始めればいい」


 アンジュがこのまま天使であり続けること、魂がこのまま仮の器にあり続けること、そのままにするのは、何となく嫌な予感がしたのだ。

 どうしてかは分からないけれど、俺の直感がアンジュを戻すことに賛成していた。


「……分かった」


 女神はそう言うと、ゆっくりと歩き出し、アンジュの肉体が置いてある部屋から、元いた部屋へと戻っていった。

 俺もその後ろについていく。

 先ほどのように、女神は呪文で扉を閉めると、


「ミュエラ、ミュエラいるか」


 そう呼んだ。

 するとこの部屋の入口、扉の前に、すぐに彼女が現れた。

 魔法で瞬間移動してきたみたいに。


「はい、お呼びでしょうか」


 扉の前で膝をつき、こちらに頭を下げているミュエラ。

 丁寧な口調と、恭しく下げられた頭に、女神に仕えているということが分かった。そういえば、以前ミュエルも、女神に忠誠を誓っていると言っていたような。


「153を、ここに連れてきてくれ」


「っ!」


 女神の意図が分からず、彼女を見上げる。

 何を考えているか分からない、無表情で、ミュエラを見つめていた。


「は」


 ミュエラは短くそう言うと、またどこかへ消えた。

 そして数秒後、また瞬間移動してきたみたいに扉の前に現れた。彼女の右手には、アンジュの腕が握られていた。


「ルイ……」


 俺を見て、アンジュがつぶやく。


「153、ここに」


 女神の言葉に、アンジュは少し肩を震え上がらせ、ゆっくりと俺たちのいるところまで歩き始めた。


「ミュエラ、もう下がってよい」


「は」


 ミュエラは女神がそう言うと、再び姿を消した。

 この部屋には、女神と俺と、アンジュだけが残っている。


 何を…話すつもりなのだろうか。

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