息が、しにくそう
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翌日、ミュエラが俺たちの元へやってきた。
今回は、アンジュが連絡をつなげてくれたおかげで、事前に来ることが分かっていたので驚かずに済んだ。
俺の部屋にミュエラは現れ、三人で床に座った。
俺とアンジュが横並び、その前にミュエラがいる。
「女神さまと話したよ」
ミュエラの表情から、結果を読み取ることはできない。
俺はごくりと息を飲み、彼女の口から次に発される言葉を待った。
「いいってさ」
あっけらかんと告げられた言葉に、俺は一瞬呆ける。そして、遅れて言葉の意味を理解した。
「え! いいのか?」
確認のためにもう一度聞いた。
彼女は静かに頷く。
「………ミュエラ、大丈夫…なの?」
アンジュが彼女に聞く。俺を心配してくれているのだろう。嬉しい。
「分からないけど、大丈夫じゃないかな。女神さまもルイと話したいことがあるみたい」
俺と話したいこと?何だろう、嫌な予感しかしない。
でも、俺のやることは決まっている。
「ありがとう、ミュエラ」
俺は手を差し出した。彼女も一瞬だけ驚いたように瞳孔を開いたが、素直にそれに応じ、俺たちは握手を交わした。
(……?)
その時俺の中に、小さな違和感が芽生えた。でもそれが何なのか分からなくて、すぐに忘れてしまった。
「……それで日程なんだけど、今からでもいい?」
「は?」
「いやぁ、何事も早い方がいいよね」
ミュエラが、あははと笑った。初めて会った時の彼女と、印象が少し変わったような気がする。ミュエルもそうだ。
二人が素を出してくれているのだとしたら嬉しい。
「まあ、そうだね。いいよ」
早いに越したことはない。それに、時間が経つとその分緊張も増しそうだ。
「じゃあ、行こうか」
彼女は小さく呪文を唱え、昨日と同じように光の渦を生み出した。
「さ、入って」
ミュエラの言葉に、俺はアンジュを見た。彼もこちらを見ている。
俺はアンジュの手を握り、渦の中へと足を踏み入れた。
**
「はぁ…本当に君は、いきなり爆弾発言するから困っちゃうよ」
ベッドの上、彼の腕に頭を預けながら僕がそう言う。
さっきの発言は、さすがにやばい。フィエルはやばいということを自覚していないのがさらにやばい。
「…? 何が?」
心の底から不思議そうにこちらを見つめてくる。顔だけはいいんだから、そんな顔で僕を見ないで欲しい。怒るに怒れない。
「僕とのこと! さっきみたいにペラペラ話さないでねってこと!」
僕は身体を起こし、彼の顔をしっかりと見てそう言った。
「…分かった。ごめん…?」
相変わらず、表情筋が死んでいる。でも、とりあえず言いたいことは伝わったみたいだ。これであんな冷や冷やすることもなくなるだろう。
「もっとこう……そう! 君も、ミュエルみたいに分かりやすかったらいいのにね」
あれは分かりやすいを通り越して、ただのバカのようにも思えるが…
そこが可愛いんだけどね。だからつい、いじめたくなってしまう。
「……」
フィエルが口を閉ざし、視線を逸らす。
これは分かる。不機嫌になっている時だ。
だてに長く一緒にいたわけじゃない。何となく、フィエルが考えていることも分かるようにはなってきた。
「それにしても、153のこと気にしてるのなんてミュエルくらいだよね」
少し焦り気味に、そう話を続けた。
どうして僕が気を遣わなきゃいけないんだ。焦らなきゃいけないんだ。そう思いながら。
「女神さまのお気に入りだっていっても、羽も生えてないし、名前すら与えられていない、出来損ないの153なんだから。そんなにむきにならなくてもいいのにねぇ」
153は、天使の中でも共通認識の出来損ないだ。
彼が今も捨てられずにいるのは、女神のお気に入りだかららしいが、僕は別に何とも思わない。153に負けているなんて、一ミリも思っていないからだ。
「………」
「フィエルは153のこと、どう思う?」
フィエルが他の天使のことを話しているのは聞いたことがない。彼がどういう感情を抱いているのか、少し気になった。
「……息が、しにくそう」
彼はポツリとそう言った。何となく的を射ている気がした。
「………そか」
僕はそう呟くと、再び身体を倒し、頭をフィエルの腕の上に預けた。
見上げると、彼もこちらを見ていて、少しだけ口角を上げたように見えた。




