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触るなっ!!

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「触るなっ!!」



 それは光から舞い降りたかと思うと、ミュエルの前に立ちはだかり、俺を睨みつけた。

 余裕そうな表情から打って変わって、見たことないくらいの形相で俺を睨みつける彼女を、俺はただ呆然と見つめていた。



「僕が…相手だ」



 彼女はそう言ったかと思うと、手の中で光の玉のようなものを作り出した。



「やめて!!」



 俺と彼女の間に、後ろにいたはずのアンジュが立ちはだかる。



「アンジュっ!!」



 俺の言葉とは裏腹に、彼女はそれを誰かに放つことなく、静かに両手を降ろした。

 公園の心もとない街灯が、彼女の顔を照らしている。

 それはまるで…弟を心配する姉のよう……



「みゅ…えら……」


「っ!! ミュエル!!」



 ミュエルの声に反応して、ミュエラが後ろを振り返り、しゃがみこむ。



「なん、で…いるんだよ」



 苦しそうな声、話すたびにせきこむミュエル。俺が、そうさせた。



「…教えてもらったんだ。僕が出かけている間にミュエルがこっちに行ったって」


「………」



 ミュエルに話しかけるミュエラの声色は、今までのものと全く違っていた。それは無意識なのか、二人はきっと人間の頃から仲のいい姉弟だったのだろう。



「…君を、ブラコンじゃないと思ったこと…撤回するよ」



 俺はミュエラに対して、そう言っていた。



「………」



 彼女はその言葉を背中で受け止める。手はミュエルをしっかりと握ったまま。



「俺は、ミュエルを殺すつもりだった。でも今は違う。……ごめん」


「……なぜ、謝る」



 こちらを振り向かずに、彼女はそう言った。



「君の…家族を殺そうとした……から」


「………」


「俺は……いや、俺たちは、幸せになるために生まれてきたんだ。殺すことで幸せが手に入るとは思えないって、今はそう思ってる。……アンジュを傷つけたことは、許せない…けど」


「っ!」



 俺の言葉に、ハッとしたようにミュエルがこちらを向いた。その視線に合わせて、ミュエラもこちらを振り向く。



「…………すまない。君を、殺そうとしたこと。153を…傷つけたこと。こんな簡単な謝罪で許してもらえるとは思っていないが。それでも、申し訳ない。…………ミュエルを、弟を…生かしてくれて……ありがとう」



 ミュエラはそう言って、地面に顔がつくほど近づけて土下座をした。



「………」



 正直、驚いた。ここまでされるとは思っていなかったから。



「ミュエル、君も」



 ミュエラが少しだけ顔を上げて、ミュエルの方を向く。

 彼はまだ傷が癒えておらず、身体を少し動かすだけでも辛そうだ。


 だから俺はゆっくり彼に近づいて膝をつくと、手を合わせて祈った。自分の魔力の発動条件はよく分からない。でも何となく、心で念じること、は条件の一つだと思った。

 一か八かのものだったが、俺の予想が的中したのか、ミュエルの身体を黒い靄のようなものが覆い、それが晴れると、彼の傷は綺麗に治っていた。



「……驚いた。悪魔は天使を治癒することもできるのか」



 ミュエラは正座をしたまま感心したように、そう呟いた。

 俺も驚いている。まさか上手くいくとは思わなかった。でも今は、彼を治すことができて良かったと思っている。


 ミュエルはゆっくりと身体を起こし、手を開いたり閉じたりを繰り返しながら、俺とアンジュを見た。



「………ごめん。…………153…も、ごめん」



 小さい声だったけれど、俺たちにはちゃんと届いていた。彼は謝罪と共に頭を下げた。俺とアンジュは目を見合わせ、困ったように笑った。



「本当に、ありがとう。君は、優しい悪魔…なんだね」



 ミュエラの言葉に俺は引っ掛かった。


 それは違う。だって、俺は一度ミュエルを本気で殺そうとした。

 でもそうしなかったのは…俺が、優しいのではない。俺の優しさは…



「そう思っているなら、今から俺の話を聞いてほしい。そして、頼みたいことがある」



 俺はミュエラとミュエルの善意に甘え、そう提案をした。

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