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頑張れよ

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「はぁ……」



 家を飛び出したはいいものの、訓練する気力はなかった。

 ふらふらと歩きながら、アンジュのことばかり考えてしまう。

 言い過ぎたという気持ちもあるけれど、でも絶対に譲ることはできなかった。

 だとしても、もっといい言い方はあっただろう。

 頭の中でぐるぐると同じことを考えては消し、考えては消してを繰り返す。

 アンジュのことを大事にしたいのに、いつも上手く伝えられない。






「ルイ…?」



 俺の耳に、聞きなれた声が聞こえてくる。



「カヤ……」


「久しぶり~ちょうど今からルイの家に…………ってルイ、その目…それに、何か顔色悪くね?」



 カヤは俺を見るなり、いつものように話しかけてきたが、すぐに違和感に気づき声色を変える。

 ミュエルに会ってから、カヤと会うのはこれが初めてだ。俺を心配してくれている。


 ふと、アンジュとカヤと三人でゲームセンターに行った時のことを思い出した。あの時も、落ち込む俺に話しかけたのはカヤだった。それも大分昔のことに思える。

 俺が悩んでいる時に現れるようにでも設定されているのかと思うほど、タイミングがいい。



「ごめん、カヤ…俺……」



 今は誰とも話す気分になれなかった。かと言って帰る場所もなく、行くあても思いつかない。



「ルイ、こっち」



 俺の様子が異常だと察したカヤが、俺の手首を握った。

 小学生の頃、家にこもっていた俺を、いつもこうやって手を引いて外に連れ出してくれた。






 カヤが連れてきたのは、公園だった。

 俺にとって思い出の場所、でも最近の記憶は苦いものだ。

 身体に本当に力が入らない。まるで魂が抜けたみたいだ。


 カヤが俺の手を引いて、ベンチに座らせた。彼もすぐ隣に腰を下ろす。



「………」


「………」



 二人の間に長い沈黙が流れる。気まずいという気持ちはなく、でも申し訳ないという気持ちも今は持てなかった。何も、考えられない。






「……ルイさ、アンジュが…好きなの?」


「………」



 長い沈黙を破ったのは、もちろんカヤだ。俺は横目に彼を見る。

 考えて出た発言がそれか。どういう意図で聞いているのか、全く分からない。



「…………」


「…好き」



 一言、そう言った。それ以外に言えることなんてない。



「っ……。そっ……か」


「………」


「………」



 再び沈黙が訪れる。でも、次はすぐに破られた。



「アンジュって…人間、じゃない?」


「…は……?」



 予想外の問いに思わず声が出た。それと同時に、しっかりとカヤの方を見る。

 彼はハッとしたように頭を抱え、



「…あーごめん、今の答えなくていい」



 と言った。


 鋭いカヤには、もう全て見透かされているのかもしれない。俺も、もしかしたら誰かに聞いてほしいと思っていたのかも。



「……カヤ、俺…悪魔なんだ」


「………ん? うん、うん?」



 カヤは俺の言葉を必死に脳内で処理しているみたいで、目がぐるぐると回っている。思わず笑いそうになる。



「それで…アンジュは、天使だ」


「………お、おう」



 俺は、自分のこと、アンジュのことを細かく話した。出会った時から、今日起こったことまで、全て。


 カヤは信じられないと言った顔で俺の話を聞いていた。当然だ。誰だって、理解が追いつかないだろう。






「………ルイが悪魔でアンジュが天使で…うんうん」



 声に出すことで、無理矢理自分を納得させているみたいだ。



「……なんか、二人って運命…みたいだな」



 そしてポツリとそう呟いた。俺とアンジュは敵対している関係だと話したのに、カヤはそう捉えたらしい。



「……信じて、くれるのか?」


「当たり前だろ。……ていうか何かごめん。想像以上に凄すぎて、簡単に聞いていいような内容じゃなかった気がする」


「いや、俺も誰かに聞いてほしかったから。背負わせるみたいになっちゃったけど…」


「んなことねぇよ。話してくれて嬉しいぜ」



 カヤの底なしの笑顔に救われる、いつも。



「………前に、」


「ん?」


「前に、カヤは俺に憧れてるって言ってただろ」


「うん、言ったな」


「それ、俺もだから。……俺も、カヤに憧れてる。…っていうか、尊敬してるよ」



 話したことで大分落ち着いたのか、俺はさっきまでの自分が嘘みたいに、気持ちが上向きになっていた。頭も冷えたのかもしれない。



「…そ」



 カヤは一言そう言っただけだったが、顔はとても嬉しそうにしていた。



「ていうかさ、ルイ早く帰った方がいいんじゃない?」


「…え?」


「いや、ルイの話を聞いてる限り、ルイがしたことが間違ってるとは思わないよ。でも、ちゃんと話し合わないとすれ違うんじゃないかなって。……何だかアンジュって、時々何も知らない子供みたいに見えるときがあるんだよ」


「……分かる」


「な。だから、今頃不安になってるんじゃない?」



 カヤの言うことは最もだ。頭も冷えてきたし、帰ってちゃんとアンジュと話さなければいけない。



「そうする。カヤ、ありがとう」


「おう、俺も色々整理しとくわ」



 最後にそう言って、カヤは俺を見送った。



「……頑張れよ」



 カヤが何か呟いた気がしたけれど、振り返らずに家に帰った。

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