うん、綺麗
2
天使とは……天界にいる神の使者。人間を守護したりする。正義。天使の逆の存在が悪魔。(俺調べ)
が、今俺の目の前にいる。何が起こっているのか、分からない。
少し前まで俺は、綺麗な顔立ちをした、俺より幼そうな見た目の彼の介抱をしていた。
そして、体調が回復した彼がそのお礼をしたいと言い出して、俺は彼の名前を教えて欲しいとお願いした。
そしたら天使だから名前はないと言われて、羽を見せられた。
いや、思い返したところで状況は変わらないし、というか全然理解できないし。
でも目の前には確かに羽を生やした何かがいる。頭を抱える俺を、彼は覗き込んでニヤリと笑った。
「どうだ?かっこいいだろ?」
羽を顔に近づけられる。鼻がくすぐったい。
「うん、綺麗」
「っっ⁉僕は、か、かっこいいか聞いたんだ!」
再び顔を真っ赤にさせて悪態をついてくる。だがそれもなんだか可愛く見えてくる。
「ていうか、それって見せて大丈夫なんですか?」
俺は思い出したように、羽を指さしながら質問した。
天使だなんてそんな軽々しく人に言っていいものなのだろうか。すると、自称天使の彼はピタッと動きを止めて、かと思うと慌ただしく動き出した。
「やばいかも…」
「はぁ⁉」
「だ、だってお前が変なこと言うから!」
「えぇ…俺のせいですか?」
「でも、天使はかなり存在しているんだ。この世界にも降り立っている天使はいる」
開き直ったように偉そうな態度で立ち上がると、俺を見おろしてきた。
「天使は皆、顔見知りなんですか?」
「いや、人間と同じだ。知っている人もいれば知らない人もいる。家族は…いないけど」
「ふぅん」
自分で聞いておいてなんだが、現実味がないせいで全く興味が湧かない。
天使と言っても人間と同じようなものなのだろうか。というか天使って結構な数いるのか?
「君は…この世界に何しに来たの?」
「それは……」
「じゃあ、天使はどうやって生活してるの?あそこで倒れてたのは何で?」
言いづらそうにつぶやいたのを見て、話題をそらすことにした。放っておいてもいいけれど、変に世話焼きスイッチが入った俺は、色々と質問してしまう。
「そこも人間と同じだ!天使は何かしらの目的のためにここに降り立つが、まず初めに仕事を探す。僕は降り立ったばかりで仕事を探していたのだが、空腹と暑さのせいで倒れた!そこにお前が通りかかったというわけだ」
「じゃあ、これからまた仕事を探すってことですか」
「そうだ!この僕を雇いたいという人は大勢いるだろうな!」
自信満々な様子に、何だか危ない雰囲気を感じる。今の所は大丈夫そうだが、このままいけば、夜の店に誘われることもありそうだ。何せ顔が良すぎる。
そして会ったばかりで失礼かもしれないが、すごくバカっぽい。スカウトされたら喜んでついていきそうだ。
というか、天使が降り立つときに偽名を決めたりしないのだろうか。不思議に思うことはいくつもあるが、天使の頭がパンクするだろうと思ってやめておいた。
「あのー、もし良ければちゃんとした仕事が見つかるまで俺の家に住みます?」
「え?」
俺の過保護っぷりは、まさに母親譲りである。だからもし俺が目の前にいる天使を家に連れて行って住まわせたいと言っても快く了承してくれるだろう。父は母にゾッコンだし、妹達は面食いだから大丈夫だと思う。
「い、いいのか!」
もしかしたら遠慮するかも、とか思った俺が馬鹿だった。天使は目をキラキラとさせ、嬉しそうに俺に顔を近づけてきた。
「はい、多分…」
天使の圧に圧倒されながら答えると、天使も何かを思い直したのか姿勢を正し、一つ咳ばらいをすると再び俺の方を見た。
「あー……ぼ、僕を住まわせたいだなんて、もしかして僕に一目惚れでもしたのか?ま、まあどうしてもというなら?住んでやってもいいが?」
本人は偉そうな態度のつもりだろうが、俺には強がってる可愛い子供にしか見えない。
「年齢は?」
いちいち反応するのも面倒で、彼の言葉を無視すると、俺はぱっと思いついた疑問を口にした。
「…年齢?詳しくは分からないが、少なくともお前よりは長く生きている」
天使は年を取らないのだろうか。明らかに俺より年下に見える。だが、敬語で話しておいたのはあながち間違ってはいなかったということだ。
「そういえば…名前、どうしますか」
「名前?……あーじゃあお前が決めてくれ」
「え…?」
いきなりそんなこと言われても困る。妹達にもいつもセンスがないと笑われるのに。
俺は必死に頭の中を駆け巡らせ、案をひねり出す。
「…アンジュ」
ポツリとつぶやいた言葉に天使は首を傾ける。
「…?」
「アンジュ、はどうですか」
自信なさげに顔色をうかがいながら提案してみると、天使は口角をギュッと上げて目を見開いた。
「気に入った!今から僕はアンジュだ!」
彼の表情から嘘を言っているようには見えないので、ひとまず安心した。
「これからよろしく、ルイって言ったよな?敬語はなくていいぞ」
「は…、うん。よろしくアンジュ」
俺が差し出した手をアンジュが握り返した。こうして、俺と天使の不思議な生活が始まったのだった。




