表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/47

可愛い弟

18



『来世では幸せになろう』



 それが僕たちの口癖だった。









「おい! またパンが盗まれてる、誰だ!?」



 遠くで男の怒号が聞こえる。それを聞きながら、僕は優越感満載だった。

 僕ってば、本当に盗みの才能がありすぎる。




「ミエラ! ただいま!」



 ただいまと言っても家はなく、お金がない人たちが追いやられた路地裏に僕たちは住んでいる。お金を持っている人たちは、まず近寄らない場所だ。

 僕の声に、本を読んでいた彼女が顔を上げる。



「姉さんでしょ、ミエル。おかえりなさい」



 ため息交じりにそう言った。


 ミエラ、というのは僕の姉だ。姉と言っても双子なのに、彼女はこうやっていつも姉面ばかりしている。ほんの少し早く生まれただけなのに、困った困った。



「見て! これ手に入れた」



 手に持っていたパンをミエラに見せる。彼女は呆れたように、



「……また盗んだの?」



 と言った。心外だ。



「違うよ! 先行投資さ!」



 前にミエラが言っていた単語を使ってみた。しかし、彼女はまたも呆れた表情で、



「全然意味違うけど…」



 とため息をついた。

 僕はどうやら頭が良くないらしい。そんな僕とは違いミエラは優秀で、いつも本を読んでいて、知らないことを教えてくれる。それがとても面白い。



「ミ…姉ちゃん、はまた本読んでたの?」


「うん、ちゃんと頭に入れるまで読まないと」



 彼女はゴミとして捨てられた本を拾って、持ち帰って破れるまで読み込む。

 ミエラは知識を得て、それを職にしようとしているらしい。だから、僕も彼女が本を読む時間を作れるように、こうして食料を盗みに行っているというわけだ。

 何て姉想いな弟だろう。



「……ごめんね、ミエル。こんな暮らしばかり続いてて…」



 ミエラが申し訳なさそうにする。



「姉ちゃんは何も悪くないのに、謝んなよ。全部あのクズたちのせいじゃん! ………それに、姉ちゃんがいるからこの暮らしも悪くないよ」


「ミエル……可愛い弟」



 彼女は少し微笑むと、僕の頭を優しく撫でた。子ども扱いされているみたいで恥ずかしいのに、これをされると僕の胸はあたたかくなる。



「うるせー」


「来世では幸せになろうね」


「ん」



 これはミエラの口癖だ。僕は来世の意味をよく分かっていないけれど、彼女がそう言うなら僕もそう願う。

 ミエラがいるから今も十分幸せだなんて、何だか恥ずかしいので言わないでおいた。







 僕たちは親に捨てられた。

 僕とミエラが十歳の時だ。

 元々少しのお金をくれるだけで、まともに育ててもらったことなんてないけれど。


 ある日荷物をかかえて出て行った後、そのまま家に帰ってこなくなった。


 数日後、偉い人がやってきて、お金が払えないならここには住めないと、僕たちを追い出した。


 そこからは、ずっと色んなところを転々として、ミエラは知識を蓄え、僕は食べ物を盗んでいる。


 寒い季節を一回超えるたびに、住む場所を移動して、ミエラは本を読み、僕は盗みをした。


 そんな生活が続いて、もう十回ほど寒い季節を超えた。

 成人したから、ようやく僕もミエラも職につくことができた。二人とも、空いている所に割り振られたので、ほとんど肉体労働だ。

 職場で周りが僕たちを見る目は冷たく、居心地はよくなかった。


 そして満足のいくお金ももらえず、家を買うことはできない。一日一日の食事を補うことで精いっぱいだった。でも、お腹いっぱい食べれることは嬉しかった。


 僕たちが街を歩いていると、白い目で見られ、汚物を見ているかのようにひそひそと話し声が聞こえる。


 それでも、ミエラがいる生活は楽しい。彼女がいるから、毎日頑張っていられる。

 それはきっとミエラも同じ。僕たちは双子、二人で一つ。同じ時間を共有し、離れることができない。多分、離れちゃダメなんだ。


 彼女はまだ、夢を諦めていない。余った少しのお金を集めて本を買い、さらに知識を蓄えている。時々、意味の分からない言葉を使うこともあるけれど、知らないことを教えてもらうのは面白い。


 だから、僕はミエラの夢を応援している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ