やっぱり綺麗だ
10
「よ!」
次の日も、カヤは家にやってきた。
「カヤくんだ~!」
玄関で軽く話していたところ、ルカが階段を勢いよく降りてきて叫んだ。その後ろには、遠慮気味にルナもついてきている。
「おう、ルカルナ!久しぶり~‼」
「そんなに久しぶりじゃないよ!」
「そだっけ?」
カヤがルカの頭を撫でながら、楽しそうに会話をする。何となく二人は雰囲気が似ている気がする。どちらも明るい性格で、コミュニケーション力が高い。そして当然と言うべきか、カヤは一瞬にして二人がどちらなのかを見分けられていた。
「ルナも、大きくなったな!」
「だから、そんなに時間空いてないよ…」
ルカの後ろに隠れていたルナにもカヤは話しかけ、頭を撫でた。ルナは俯いて、恥ずかしそうにそうツッコミを入れていた。
ルナが人見知りなのは察していたけれど、カヤに対しては何だか態度が違う気がした。僕と同じようにルナもカヤが苦手なのだろうか。それとも…
「カヤ…くん、今日もかっこいい」
しかし、ルナは恥ずかしがりながらもカヤの方を見て、小さくそうつぶやいた。苦手な相手にこんなこと言ったりしないだろう。
「おーありがと!ルナも可愛いなぁ‼」
ルナの言葉を、カヤは本気にしているのかいないのか、よく分からない反応をした。でも、カヤの発言にルナは顔を真っ赤にして、すぐにルカの陰に隠れた。
「もちろん、ルカも可愛いぞ」
「はいはいどうも~」
ルナの反応は見覚えがある、というかむしろ僕の記憶に残っている。
(あ、会えただけで嬉しくて、胸がいっぱいになったり……笑った顔にきゅんとしたり、上手く言葉に表せないけど、こう心臓がギュっと掴まれたみたいな気持ちになる…。愛おしいなって…)
そうだ、ルナが話していた好きな人のこと。もしかして………
僕がルカの方を見ると、ルカは僕に気づいて人差し指を口に当てた。どうやら僕の予想は当たっていたようだ。
「カヤ、ルカとルナを口説くな」
ルイが冷たく言い放つと、カヤの腕を掴んでそのまま階段を上り始めた。
「ちょっ!ルイくーん痛いよー」
「今日も騒がしかったな…」
ルイがつぶやく。
カヤが帰った後の部屋は、余計に静かに感じる。それが寂しくも嬉しくもある。まだ出会って二日なのに、僕の印象にカヤは強烈に残っていた。すごい男だと思う。
今日はルイの部屋で三人でゲームをしたり、リビングでルカルナと一緒に雑談をしたりした。
「………」
ルイが僕の方をじっと見つめる。
「何…?」
そんなにまじまじ見られると、恥ずかしい。
「…いや、時々アンジュが天使だってこと忘れそうになるなぁって。なんか…普通の人間、みたいな……」
そう言われて、自分が天使だということを忘れかけていたことに気づいた。羽も……ずっと出していない。上に言われていたことすら、何もできていない。
ルイといることが、この家にいることが楽しくて、忘れていた。
「あ、当たり前だろう。人間にできることが、僕にできないわけがない!つまり、僕は人間にもなれるということだ!」
「…そっか(笑)」
ルイの笑顔は心臓に悪い。でも、もっと見ていたいような気持にもなって…。自分の感情が良く分からなくなる。
「あのさ…アンジュのこと、聞いてもいい?」
「………」
「嫌だったら無理に言わなくていいんだけど、思えば俺、アンジュのこと…天使のこと、何も知らないなって…」
ルイの言いたいことは分かる。別に黙っていたわけではないけれど、自分から進んで話したいと思う内容でもない。僕にだって…言えないことはある。
違う。言えないんじゃない、言いたくない、知られたくないだけだ。
「あまり、知らないんだ。僕も」
「え…?」
「どうして天使になったのか、何のために存在しているのか、分からない。ただ、天界には女神さまがいて、その人が僕に命じた。ここにきて役割を全うしろって」
「役割……」
嘘はついていない。天使のことをよく知らないのも本当だ。自分の役割のことは話せないけれど。
「…羽、もう一度見せてくれない?」
ルイはそれ以上、天使のことは聞かずに、代わりに僕の羽を見たがった。僕は目を閉じると、静かに呪文を唱え、羽を生やした。
目を開けると、僕の羽を間近で観察するルイの姿が見えた。
「………やっぱり綺麗だ」
そうつぶやいたルイに、僕は素直に喜ぶことができなかった。
初めて会った時もそう言われた。あの頃は嬉しいと思っていたのに、今は彼が本当のことを知っても同じことを言ってくれるだろうかと怖くなる。
ルイは、僕の本当の姿を見ても…受け入れてくれるだろうか。




