なんとも美しき人の愛
「手術完了です。お疲れさまでした」
獣医の声が耳に響く。
身体に打たれていた麻酔の効果がまだ残っているのか、少しまだ倦怠感がある。
「まだフラフラします?」
「はい。残ってますね、麻酔」
獣医に問われて私はそう返事をしながらベッドから半身を起こす。
「まだ辛そうですね。ワンちゃんは私が連れてきます」
そう言って歩いていく獣医の背中を見ながら、私は胸に手を当てて鼓動を確認する。
やはり変化らしい変化はなさそうだ。
「可能な限り違和感がないようにしているんです」
ゴールデンレトリバーの子犬を抱えながら獣医が帰ってきた。
「大切なことですからね」
獣医の腕の中で子犬は明らかに怯えており、尻尾を丸めて身を小さくしていたが、私のにおいに気づいたのか顔を上げて鳴いた。
「おっとっと……はいはい。慌てなさんな。飼い主さんはそこですよ」
そうあやしながら獣医は私の腕へ子犬を渡す。
子犬は悲痛な鳴き声を漏らしながら私の腕の中で丸まった。
「はいはい。ごめんね、ごめんね。大丈夫。飼い主さんからはもう離れないですよ」
受け取った子犬……私の愛犬の腹には小さな手術痕が残っていたが、触れてもまるで痛みがないのか指で何度か叩いても子犬は特に反応を示すことはなかった。
「はい、これでもう大丈夫です!」
にっこり笑う獣医に私は尋ねた。
「本当に大丈夫なんだね?」
「安心してください! この子の命はちゃーんとあなたの命と繋がりました。あなたが死ぬと同時にこの子もまた死にます」
安堵のため息が漏れた。
医師より宣告された私の余命期間はまだ大分余裕がある。
「私が死んだあとコイツが一人残されるのは流石に可哀想だからな」
そう呟くと獣医は笑顔で頷いた。
「その通り! ペットを飼うのなら死ぬまで面倒を見るのは飼い主の義務ですからね!」
まだ手術の時の記憶があるのか、子犬は獣医の声を聞きビクリと私の腕の中で大きく震えた。