ぼくは戦争を知らない⑨
「あいたたたた…」
「大丈夫か!うさぎ!」
目を開けると、地震のあった社会科資料室に戻って来ていた。
「…夢…?」
「…じゃないだろう?」
先生は自分のほっぺたに残る傷を指差す。
そこには隊長に叩かれた傷が青く痣になって残っていた。
「…ねぇ、先生。次の休みにでも、先生のおじいさんに会いたいです」
「そうだな…」
先生はぼくの目元に指を滑らせた。
「…泣くな」
「泣いてないです」
まだ涙の残る目で見つめあっていると、ガラリとドアが開いて、先に帰ったはずの岡野が飛び込んで来た。
「うさぎ!大丈夫か!」
「あ、岡野」
散らかった部屋の中にぼくたちの姿を見つけた岡野は後ずさる。
「もしかして、オレ…邪魔したかなぁ」
「え?」
「いや、ラブラブシーンに見えるから」
ぼくは岡野を睨んだ。
「違う」
「本当か?」
「違うぞ、岡野」
先生の言葉に、彼はほっとしたように資料室に足を踏み入れた。
「凄い揺れだったなぁ」
「さやかちゃんは?」
ぼくは慌てて岡野に聞いた。
「あー。危ないから校庭で待たせてある。帰るか?」
地震の揺れの時間はぼくらにはわからない。
短い時間の出来事なのかもしれない。
でも、ぼくが体験したのは、一生に値するくらい長い時間だった。
そこには、たくさんの真実がこぼれ落ちていた…。
本当にたくさん、こぼれ落ちていたんだ…。