ぼくは戦争を知らない⑧
それから五日が過ぎた。
「第八部隊、出撃する」
戦闘機のカプセルみたいな座席から、隊長が叫んだ。
「お国のために、いざ散らん‼」
兵隊さんたちが返して叫ぶ。
「いざ、出撃!」
ゴーっという爆音とともに、幾つもの戦闘機が飛び立っていく。
部下たちが無事に飛び立つのを確認して、隊長も続く。
最後に、隊長はぼくらを見て、ニヤリと笑った。
そう、確かに笑ったんだ…。
それから一日が過ぎ、二日が過ぎても、第八部隊の兵隊さんたちは誰も帰って来なかった…。
「先生…」
「…大空の花になったのかもな」
二人で基地に戻って、兵隊さんたちの部屋を片付けていたら、あるものを見つけた。
それは、どこの部屋からも見つかった。
「これは?」
「きっと、日記だな」
ぱら、と風がページをめくる。
日記の間に挟まれた、小さなメモ。
送ることが出来なかった本音が記されていた。
『お母様へ。もう一度、お母様の豆ご飯が食べたかった』
『お国のために、と兵隊さんになったけれど、自分には向いていなかったようです』
『どうか、お元気でお過ごし下さい』
『先に旅立つ親不孝をお許しください』
声に出して読んだら、涙が溢れた。
これは、作り物じゃない。本物だ。
手紙をぎゅっと抱き締めて、ぼくは泣いた。
戦争は平和な日々だけじゃなく、家族も恋人も奪っていく。
そして、命でさえも。
理由がなんであれ、これは許してはいけない。
ぼくらはこれを忘れている。
時代は、これを思い出させたかったんだと思う…。
たぶんそうだ。
だから、不思議な力は、ぼくらをここに導いたのだろう。
ぼくだけじゃ伝えきれなかったから、社会科の先生も一緒に来たのだろう。
「うさぎ…」
「先生〜」
ぼくは先生に抱きついて、そのまま大声で泣いた。
先生はなにも言わずに、ぼくを抱きしめてくれていた。
「ちくしょう」
泣いてどうにかなることじゃないけど、ぼくは泣いて泣いて、泣きじゃくった。
そうして八月六日、ドォーーンという大きな地揺れと共に、ぼくらは倒れた。