表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

ぼくは戦争を知らない④

ズガーン!ズガーン!

ウー、ウー。

爆音が耳をつんざいた。

「きゃあ!」

ぼくは耳を両手でふさいで、地面に座り込んだ。


「大丈夫か!」

誰かがぼくの腕を掴んで、引っ張って立たせる。

「先生!」

涙の溜まった目を開けて見ると、手を引っ張ったのは先生だった。

「なんだぁ?ここは一体、どこなんだ?」



ここ、どこ?

あの爆音はなに?

花火じゃない。

今は夜、なんだと思う。

なのに、なんで空があんなに赤いの?


近くにあるスピーカーからは、サイレンが鳴り続けている。

わんわん響く声が音割れしながら、『空襲警報』と繰り返した。

「そうか、なるほどな…」

先生が呟いて、ぼくの手を握る手に力を込める。


「そこの若いの二人、死ぬつもりなんか!」

前方に見えたおじいさんが、ぼくらに向かって叫んだ。

「二人分…。いや、一人分でいい。こいつを入れてやってくれ」

先生の言葉に彼は頷いて、ついてこい、というような仕草をした。


民家の庭に掘られた跡。

地下に作られた小さな部屋には、たくさんの人が入っていた。

「怪我はしとらんか?若いの」

「ああ、助かりました。ありがとう」

先生はぼくの手を握ったまま、おじいさんに頭を下げた。


「お前らは、非国民なんか?」

ん?ひこくみん…てなに?

「いや…。おじいさん今は昭和何年だ?」

先生がおじいさんに聞いた。

「なにを言いよるか、昭和弐十年じゃろう」

おじいさんが怒ったように、眉を吊り上げる。


「俺は、記憶に障害があって、兵隊になれなかった。弟は生まれつき耳を患っていて、俺がいないとなにも出来ない。…そんな俺たちだけど、お国のためになにかをしたい。…どこに行けばいいだろうか?」

先生の言っている意味がよくわからなくて、ぼくは握られたままの手に力を入れる。

「それやったら、第八部隊に行ってみたらいい。雑用くらいはできるだろう?」

「ありがとう」



サイレンの音が止まった。

外が静かになる。

「さて、行くか」

先生がぼくの肩をつついて、ぼくの目を見て、ゆっくりと口を動かした。

ん?なに?

首を傾げて、しばらく考えた。


ああ、そうか。

ぼくは耳が悪い設定だから…。

そう理解して、ぼくは頷いた。

「本当にありがとう。助かりました」


「あ、待って」

おばさんがぼくの肩を叩いて引き止める。

「これを持っていって」

そう言って差し出されたのは、帽子。

ふかふかした座布団みたいなやつ。

ううん、違う。

綿入りの防空頭巾なんだと思う。


「…これ」

「息子に渡すつもりやったんやけど…もう帰って来んからあんたに」

ぼくは彼女を見た。

ちょうど母親と同じくらいの年齢か。

「死んだらあかんよ」

その言葉にしっかり頷いて、頭巾を受け取った。

「ありがとう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ