ぼくは戦争を知らない②
「今日はビデオを見てもらう」
「えー」
どこからか、ブーイング。
「いや、先生も悩んだんだが、一度は知っておかないといけないもんだからな。今、どごぞのアホが、『軍事国家』や『憲法改正』『有事法案』を叫んでいることだし、そうしないためにも、お前たちはコレと向き合わなければいけないだろう。憲法第九条は、はずせないんだ」
ん?憲法第九条って、戦争放棄だったっけ?
「先生のじーさんからも話を聞いてきた。先生のじーさんはもうぼけてしまっていて、老人ホームで世話になっているんだけど」
先生が少し目を伏せた。
「戦争のことだけはいつもリアルに覚えているんだ。どれだけ大変だったか、とかな。戦場で出会った初恋の人のこととか。死んじまったばーさんとの出会いのこととか。いつも泣きながら話してくれるんだよ。孫である先生のことは、覚えていないくせにさ」
教室がしんとしている。
先生の話は自然と耳に入ってくるんだ。
たぶん、この人はひとを引き付ける力を持っているんだと思う。
「どうしても見たくない奴や、気分が悪くなった奴は、遠慮せず外の空気を吸ってこい。楽しい映像じゃないからな」
教室に暗幕がひかれ、ビデオテープが回り始める。
そこに映し出された光景を、ぼくは知っている。
ああ、昨夜の夢だ…。
そう思ったら身体がすぅっと軽くなって、目の前が暗くなっていった。
「…さぎ、うさぎ」
耳元で呼ばれている気がする。
「ん…」
うっすらと目を開けたそこには岡野の顔があった。
「ん?どうしたの、岡野。キスでもするつもり?」
「いや…。よかった。お前、ビデオの途中で倒れたんだよ。それでここは保健室。先生、目が覚めたみたいっす」
なるほど、真っ白な天井だ。
「え?ぼく、倒れたの?」
「ああ、眠るみたいにな。…まさか、夢に誘われたのか?」
岡野が他に聞こえないように、耳元に囁く。
「そうみたい」
「やっぱりか…。なにかが呼んでいるんだよ、オマエを」
呼ばれているのか?
「…ぼく、生きていられるかなぁ」
「大丈夫だろ」
見つめあっているぼくらのところへ、白衣の保健医が現れた。
「羽咲くん、大丈夫?」
「はい」
「熱もないみたいね」
彼女の柔らかいてのひらが、ぼくのおでこに触れる。
「もう大丈夫です。次の授業から出ます」
「そう?」
岡野が丸いすから立ち上がった。
「休んでから来いよ」
「うん。ありがとう」
ぼくは重いまぶたを一度閉じた。




